ヒラリー・ローダム・クリントン氏が2016年大統領選を振り返る回顧録。彼女の生い立ちからファースト・レディまでの記録は、別の自叙伝"Living History"に詳述されている。
夫であるビル・クリントンの視点から描かれたヒラリー像、米政府で働いた私の経験も総合して、ヒラリー氏の生き方に関する感想を語ってみたい。
女性の地位向上
彼女の活動によって多くの女性が勇気づけられ、女性の地位が向上したことは間違いない。人間には様々な才能があり、政治家やリーダーに向いている女性もいれば、主婦に向いている女性もいる。各人の適性や選択が尊重され、自己実現をできる社会=より豊かな社会に向かって前進した。
ヒラリーは学生時代、フランス語の教授に「あなたの才能は別のところにある」と言われた。昔のように女性の職業が教師や看護婦に限定されていたら、彼女のような卓越した人物の才能が生かされなかった。
人口の半分は女性であり、女性の直面する問題は女性にしか中々理解できない。性暴力、痴漢被害、セクハラ、雇用差別など。そうした問題を解決するためにも女性政治家の存在が重要であり、ヒラリーが上院議員、国務長官をへて、大統領候補として総得票数でトランプに勝ったことは大きな意義がある。
既得権益の反発
これはすなわち、白人男性が既得権力を失うことも意味する。政治家や上級管理職の椅子をめぐってライバルが増える。
白人男性だという理由で上級管理職に就いている男性はそこら中にいる。私の米政府勤務中にも、どうしてこんなのが上司なの?と疑問を持つ白人男性はかなりいた。女性の職場進出が進めば、こうした男性が今後追い出される可能性は高くなる。
セクハラ禁止によって、かつてのジェームズ・ボンドのように職場の女性を触りまくることもできない。
このような男性にとって、女性蔑視のトランプ候補は好都合だったのだろう。
ただマイノリティー優遇が行き過ぎると逆差別になる。私の勤めていた米国官庁の部署には黒人女性の広報担当者がいたが、彼女の作成するプレスリリースには文法ミスがよくあった。おそらく表向きのイメージ向上のため、黒人女性だという理由で雇われたのだろう。このポジションにはもっと能力の高い白人男性が応募していたかもしれず、そうだとしたら、彼は憤懣やるかたないだろう。
こうした不満も広がり、「ポリティカル・コレクトネスなんてクソくらえ」と強調したトランプ氏への支持者が増えたのかもしれない。
電子メール問題
ヒラリー氏が私用メールを仕事で使った問題については、別記事で詳述した。一言で言えば大問題ではあったと思うが、それ以上の大問題は、歴代国務長官や政府高官も同じだったということだ。
またクリントン政権下でヒラリーの外遊にまだ子供だったチェルシーも同行したのは、どうかなと思う。娘にとって世界を見る非常に貴重な体験になったとヒラリーは喜んでいるが、これって特権利用に過ぎないのではないだろうか。将来のリーダー養成のためにファーストレディに同行する「子供大使」を公募するといったアイディアのほうが、機会均等という意味でよかったと思う。
権力は暴走してダブルスタンダードを生み出す可能性があり、だからこそ監視が必要である。
米国大統領選へのロシア介入
これは本当なのかなと思う。プーチン大統領にとってみれば、ヒラリーではなくトランプが大統領になったほうが、はるかに自分のほうが頭がよく見えるし、実際にそうなった。
逆にヒラリーは、プーチンによるロシア人ジャーナリスト殺害などの圧政を非難したため、ヒラリー政権では自分が見劣りし、自らの地位も危うくなると判断したのかもしれない。