2022年1月28日金曜日

米政府高官の言動からロシア情勢を読み解く

  ウクライナ情勢をめぐり米露関係が緊迫している。

 バーンズCIA長官は在ロシア米大使を務めたロシアの専門家で、同氏によれば米露関係の転換点となったのは、2007年にミュンヘンの会議でプーチン大統領が行った演説だった。

 当時のプーチン氏は陰気なガリ勉の風貌で、一字一句用意された原稿を見ながら話した。だが内容的にはブッシュ息子政権のイラク侵攻と米国一極支配を痛烈に批判し、怒りを爆発させた。米国追従の西側諸国の立場では言えない真実を語り、説得力があった。

 ウクライナや米大統領選へのロシア関与について、ブリンケン国務長官はプーチン氏が「真実を語らず、デマを流し、情報操作を行い、他国の領土を侵害している」と批判した。だが時系列的にみれば、米国のほうが先にイラクに大量破壊兵器があるとウソをついて情報操作を行い、戦争をしかけた。

 ブリンケン氏は西側諸国がオバマ大統領の発言を信じ、過去の大統領も信頼されたとして、1962年のキューバ危機を振り返った。米国の最もやっかいな協力国・フランスのドゴール大統領ですら「米国大統領がそう言ったのなら信じる」として、ソ連がキューバに配置したミサイルの証拠写真を国務長官から提示された際に、見る必要はないと断ったという。

 しかしながら、米国大統領が信頼できる例がいきなり1962年にさかのぼるのは、いささか古すぎる。(ブリンケン氏としてはクリントン大統領について語りたかったかもしれないが、モニカ事件でダメと判断したのだろう。)

 ウソをついたと他国首脳から批判された米国大統領は、ブッシュ息子だけではない。民主党のカーター大統領は米中国交正常化にあたり鄧小平を激怒させた、とエズラ・ヴォーゲル氏は記録している。極秘の交渉がようやくまとまり発表の直前になってから、最初から中国側が条件としていた内容を米側がひっくり返したのだ。

 米中国交成立と引き換えに米国は台湾への武器輸出をやめる、という話になっていたが、当時の米政府北京事務所長が「今後も米国は台湾に武器輸出を続ける」と鄧小平に伝えてきた。鄧小平は全く受け入れられず10分間どなりつづけたが、最終的には了解した。近代化を進めていた中国としては、中国人の米国留学や技術協力がどうしても必要だった。だが足元を見られ、ちゃぶ台返しをされたという悔しさは根深く残った。

 米露関係に話を戻すと、最初のオバマ・プーチン会談はモスクワ郊外のプーチン氏の別荘で行われた。オバマがプーチンに米露関係をどう思うかと10秒ほどの短い質問をすると、プーチンは45分も独白を続け、いかに米露関係が不公平だと思うかを述べた、とバーンズ氏は語っている。

 だが同氏は具体的な話の内容を明かしていない。あくまで想像ではあるが、明らかにプーチンの言い分が間違っている、あるいは米国にとって好ましい議論が行われていたら、もう少し会話内容に踏み込んで言及しただろう。

 政府高官の発言内容だけではなく、あえて語っていない事柄やその理由を推察し、あらかじめ持っていた知識とつなぎ合わせていくのは、かなり面白い知的作業である。