2022年1月30日日曜日

ジェームズ・ボンドを超える敏腕スパイ

 突然ながら、あなたにとって人生最大の喜びとは何だろうか?

 先日紹介したノンフィクションを夢中になって読んでいると、その瞬間が訪れた。

 主人公のKGB職員がデンマーク駐在から帰国する。3年前にも増して陰鬱としたモスクワ。行列、スス、息の詰まる官僚組織、恐怖、腐敗、プロパガンダ。役人はゴマすりか無作法のどちらか、排水溝はゆでたキャベツで詰まり水が流れない。きちんと機能するものは皆無。

 1970年1月のソ連など行ったこともないが、なんとも生き生きと情景が見える。数年前に私がモスクワを観光した際には雷雨に見舞われ、そこらじゅうで水があふれていた。ゆでたキャベツはなかったものの、このように詳細な描写によって、当時の様子と主人公の追い詰められた心境がひしひしと伝わってくる。

 そう、私が最も弱いのは鋭い観察にもとづくリアルな描写なのだ。今までいろんな本を読んできたが、著者のBen Macintyre氏はピカ一である。なぜもっと有名ではないのだろうか。マイケル・クライトンの小説を読んだのは時間の無駄だった、とすら思う。

 もっと言えば、ジェームズ・ボンドの作品のいくつかも時間の無駄だった。派手なアクションや暴力シーンが好きな人は007シリーズの映画も楽しめるのかもしれないが、こんなことあるわけないでしょうと思うのであれば、さっさと画面を閉じて、The Spy and the Traitorを手に取ることをお勧めしたい。

 主人公のKGB職員をリクルートしようとするMI6職員もイギリス人「あるある」で思わず爆笑した。

 Richard Bromhead was one of those Englishmen who put a great deal of effort into appearing to be a lot more stupid than they really are. 

 Monty Pythonのコメディーは典型例だが、イギリスになじみがあれば、この描写にあてはまる人は思い浮かぶだろう。

 このほか、ええ、そうなんだと思う事実が次々と語られる。

 MI6があまりにも浅はかな情報収集の手法を提案したため、主人公は断った。ただし情報源を守るため、MI6はCIAに対しても必要最低限の情報しかシェアしない(逆もしかり)。

 スパイはコンタクトを作るのが任務の一つなので、招待されようがされまいが、各国大使館主催のレセプションならどこでも出没する。(ん、〇〇氏のことかな??)

 在デンマークソ連大使館の諜報員は経費をごまかして遊んでばかりいるが、在ノルウェーソ連大使館員はメチャクチャまじめに働いている(地政学的にノルウェーはNATO最前線であるため)。