2022年2月27日日曜日

プーチン大統領・開戦演説 驚きの独白

 プーチン大統領は2月21日、約1時間の演説を行った。ロシア語で国民と友人向けに語った内容の全文は、ロシア政府が英訳してクレムリンのHPに掲載したようだが、現在ではアクセス不能となっている。

 ウクライナ危機が深刻化するなか、プーチン氏の説明をロシア政府がブロックするとは考えられない。アクセス不能にしているのは、彼に敵対する勢力なのだろう。

 日本人ジャーナリストによる和訳作業の途中でアクセス不能となり、今のところ、インドのサイトに掲載された英訳と個人がアップした動画でのみ閲覧できる。

 この演説でプーチン氏は驚くべき内容を語っている。私が最も注目したのは下記の部分だ。

"I will say something I have never said publicly, I will say it now for the first time. When then outgoing US President Bill Clinton visited Moscow in 2000, I asked him how America would feel about admitting Russia to NATO.

I will not reveal all the details of that conversation, but the reaction to my question was, let us say, quite restrained, and the Americans’ true attitude to that possibility can actually be seen from their subsequent steps with regard to our country. 

I am referring to the overt support for terrorists in the North Caucasus, the disregard for our security demands and concerns, NATO’s continued expansion, withdrawal from the ABM Treaty, and so on. It raises the question: why? What is all this about, what is the purpose? All right, you do not want to see us as friends or allies, but why make us an enemy?

There can be only one answer – this is not about our political regime or anything like that. They just do not need a big and independent country like Russia around. This is the answer to all questions."

 この注目すべき発言について、米国ではRealclear Politicsという独立系メディアが伝えているが、主要な新聞やテレビでは触れていない。日本の報道は完全無視である。

 欧州メディアでは、AFPが手短に伝えているほか、ガーディアン紙によれば、プーチン氏はクリントン氏から「ロシアは大きすぎるからと一蹴された」という。

 この部分については、ガーディアンによるプーチン演説の解釈なのか、あるいは独自取材の結果なのかはわからない。いずれにせよ事実だとすれば、それではなぜ米国という超大国がNATOに加盟しているのか。

 このほかプーチン演説の要旨は以下の通り。

・ウクライナは歴史、文化、信仰からロシアの一部である。しかしながら、ソ連時代にレーニンらがロシアと東欧諸国の土地をつぎはぎする形で、人工的にウクライナという国をつくった。

・現在のウクライナは西側の傀儡政権である。ロシア語や文化を抹殺し、同化する政策が続いている。ロシア系住民は自らの土地、文化、言語を守ろうと、2014年のクーデターに反対したことで虐殺された。

・クーデターの首謀者たちは外国から直接援助を受けていた。報告によれば、米国大使館はキエフの独立広場の「抗議キャンプ」を支援するため1日100万ドルを提供した。(注:この発言は元CIA職員による以下の記述を思い出させる。"私の祖父は「陸軍のエンジニア」で海外生活が長く、いつも駐在国で予期せぬテロが起きて政府を転覆させていた。。本当の勤務先はCIAではなかったのかと、私は感じている。")

米国はウクライナの国家汚職防止庁、国家汚職防止局、汚職防止専門検察庁、汚職防止高等裁判所を直接支配している。ロシアを含む多くの国で汚職は問題となってはいるが、ウクライナの汚職は常軌を逸している。(注:私はウクライナ人に騙されて大変なことになった日本人を知っている。限られた体験だとは思うが、このためウクライナにはあまりいい印象がない。)

NATOは東方拡大しないという約束を反故にしたため、相互信頼が失われた。(注:この件は先日の記事でも紹介した。)

・米国の防衛計画書には先制攻撃が含まれている。敵は誰か? ロシアである。米国はミサイル防衛システムを展開し、ウクライナがNATOに加入すればロシア上空を監視できる。これは「喉元につきつけられたナイフ」である。これらの動きはロシアが表明してきた恐怖感と懸念を完全に無視するものだ。

・ウクライナ憲法17条は外国軍を自国領土に置くことを認めていない。だがNATO軍事演習がすでにウクライナで行われている。各国は自分で同盟を結ぶ権利はあるが、それによって他国への脅威を与えてはならないと、欧州安全保障憲章アスタナ宣言は述べている。

 プーチンの本音をまとめると、以下のような感じだろうか。

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 ええ、そりゃレーニンがロシアの歴史や文化を無視して勝手にウクライナという人工国家をつくったのが、諸悪の根源だった。

 でもね、ロシアはソ連崩壊後もウクライナを支援してきたし、東欧諸国の負債の肩代わりまでしてやった。にもかかわらず、ロシアと欧州を結ぶパイプラインからガスを盗むなど、ウクライナはいつだって寄生虫のように自立していない。

 それにつけこんだ米国がウクライナを支配下に置こうと、テロやクーデターを画策。ロシア系住民を虐殺し、ウクライナを利用してロシアを監視しようとしている。米国はロシアをNATOに加盟させないばかりか、過去30年にわたり、NATOは東方拡大しない約束を反故にしてきた。

 ウクライナは自らの憲法すら無視して、すでにNATO駐留軍の演習を行っている。

 法律や約束を守らない輩には、法律や約束では対処できない。この期に及んでは、最後の手段、すなわち軍事力に頼るしかない。俺たちは核だって持ってる。もうこれ以上バカにするんじゃない。

 米国は裏からクーデターをあやつるといった姑息な手段を使うが、オレは正々堂々と正面から行く。独立国には自らを防衛する権利があり、そこには先制攻撃が含まれる。米国の防衛計画にもそう書かれている。

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 個人的な感想を言えば、最大の犠牲者は何も悪くないウクライナ市民である。本当に気の毒としか言いようがない。

 そもそもソ連の指導者たちの気が狂っていた。だが真犯人がレーニンなのかはわからない。ロシア革命に資金援助を行ったのは英米金融機関だったと、在ウクライナ日本大使を務めた馬渕睦夫氏は述べている

 だがクリントンがロシアをNATOに加盟させていれば、それこそ一件落着で世界平和が訪れ、何の問題もなかった。やっぱり米国も悪い。

2022年2月26日土曜日

ヤバすぎる冬場の電気代をどうするか?

 今月の電気代がひさびさに2万円を超えてビビった。

 家計簿を調べてみると、過去最高の電気代は2018年2月(22,055円)。この年はとても寒く、1月22日に都心で23センチの積雪を記録した。2013年、2014年の冬も2万円超となっている。

 最大の要因はオイルヒーター(1,500W)である。冬場のピークは夜に寝ている間もつけっぱなしにしていた。エアコンとは違って風も音もなく、まるで春が来たかと思うような快適さはヤバすぎる(😅)。

 最も消費電力の大きい電気製品はIH調理器(3,000W+2,000Wの2口)だが、マックスで使うのは炒め物や、鍋物やスープ類、ゆで物に使うお湯が沸騰するまでの間に限られる。ガスと比べてIHは水→沸騰までの時間がメチャクチャ短いため調理の大幅な時短となり、後片付けもサッと拭くだけですむ。

 基本料金は30Aで設定、IHを使う前にはエアコンを切る。(IHは200Vのため3,000W=15Aとなり、冷蔵庫や照明は問題なく使える。)エアコンは電源のオンとオフを繰り返すと電気代が上がるらしいが、うっかりするとブレーカーが落ちるほど電気を使うのは冬場に限られる。そのために年間契約を40A、50Aにして基本料金を上げたくない。

 加湿器は空気の質のため加熱式(270W)を使用。

 あとはサッシを断熱窓に換えるべきか。東京都の補助金で材料・工事費の3分の1、上限100万円まで出る。ただし節約できる電気代で自己負担額の元が取れるのか。いろいろと調べてみると、どうやら残念な結果のようだ(😂)。

 さらに言えば、補助金申請にかかる時間と手間、ショールームに行く時間と電車代、複数の業者と打ち合わせて見積を取る手間ヒマ、現在の窓にかかる廃材処理費なども考慮すれば、とりあえずいいか。。

 すでに新電力は契約済でキャンペーンのクオカード、基本料金3カ月無料、ガス割などの特典はゲットしている。

 あとは平和を祈りつつ、燃料費が落ち着くのを願うしかない。

2022年2月25日金曜日

ブルジョア支配を凌駕する社会主義のメリット

 プーチン大統領がまさかのウクライナ侵攻、東部のみならず首都キエフを含む各地で攻撃を行っている。

 NATO=西側陣営の拡大を阻止すべく、地政学的に緩衝地帯となるウクライナは自らの支配下に置きたい。冷戦時代のソ連に匹敵するロシアの存在感を取り戻したい、ということなのだろう。

 そこまでして彼が守りたいものとは何なのか。

 ソ連と言えば社会主義国家である。現在のプーチン氏は欧州一の富豪と言われるほどブルジョアの最たるもので、彼自身が今でも社会主義を望んでいるのかはわからない。

 社会主義国は警察国家で言論の自由はなく、国民は貧しい。そのような環境はかなり息苦しいだろう。その一方で、社会主義は才能ある個人を国家が発掘して育て上げるシステムとしては優れている。

 フィギュアスケートの王者と言えば、後にも先にもプルシェンコの右に出る者はいない。彼ほど魅力的なルックス+卓越した技術を兼ね備えた選手はほかに見当たらない。

 プルシェンコは大工である父親のもとに生まれたが、地元のスケートリンクで滑っていたところ、国家がその才能を見抜いて英才教育を施した。こうしたソ連時代の制度で育った最後の選手の一人だという。

 資本主義国であればフィギュアスケートを習うのは経済的に余裕のある家庭の子供に限られる。もしプルシェンコが日本やアメリカで生まれていたら、大工の父親の収入や家庭環境では、その卓越した才能は埋もれたままだっただろう。

 日本では浅田真央が注目を浴びたが、個人的な感想を言えば、トリプルアクセルのジャンプに固執しすぎて全体の動きがぎこちなく、容姿も平凡である。日本人の多くの選手はそれ以下のレベルであり、プルシェンコの次元にははるかに及ばない。

 羽生結弦選手の動きや技は素晴らしいとは思うが、彼は超絶なハンサムというわけではない。フィギュアスケートはスポーツというよりも、バレエや舞台に近い芸術であり、そこには俳優なみのルックスが求められてしかるべきだ。

 おそらく日本にはもっと顔の造作やスタイルに恵まれ、才能のある子供がいるに違いない。だが親が習い事をさせる余裕がなく、国家が見い出して育てるシステムもないがために、ダイヤモンドのような原石でも磨かれることはない。

 つまり資本主義=親ガチャ=生まれた家庭の経済力によって受けられる教育が決まってしまう。このため、人間の持つ素質を最大限に引き出すことで生まれる超一流の人材が育たない。

 このような現実の拡大を推し進めているのが欧米であり、プーチンが阻止したいことの一つなのかもしれない。

「プーチン」三部作 木村汎著 読書メモ

  北大名誉教授でロシア専門家の著者が、これでもかとプーチンを深掘りした大著。「人間的考察」「内政的考察」「外交的考察」の三冊本で、各冊の厚さが5~6センチもある。

 図書館でざっと目を通したところ、特に「人間的考察」がメチャクチャ面白い。印象に残った内容をメモしておくと。。

・プーチンはソ連の庶民家庭で育つ。両親と3人暮らしで自宅は20平米のワンルームのみ。台所とトイレは他の家庭と共用、風呂なし。(2人の兄はプーチンが生まれる前に死亡。)

・住宅事情が悪く子供時代は道路で友達と過ごす。小柄で痩せていたため、大柄で強い子供にいじめられた。

・強くなるために試行錯誤を重ね、柔道をはじめる。自分は小さくても、相手の強さを使って投げ飛ばすことができるからだ。「世の中は強い者が勝つ」「強さこそ唯一の正義」「相手の強さを利用して勝つ」というプーチン哲学はこうして培われた。

・現在も身長168センチだが、あらゆるスポーツをやって体を鍛えてきた。ホッケーがいちばん好き。分厚い胸板を披露したがり、公開されている写真以外にも数多くの写真をおかかいのカメラマンが撮っている。

・同年代の多くのソビエト男性と同様、家父長制で男尊女卑的な家庭観を持つ。離婚した妻と婚姻時代、幼い長子を連れて妊娠7カ月だった妻が荷物を持ち、エレベーターのない集合住宅の6階にあった自宅まで階段をのぼっていた。だが「家のことは妻の仕事」という理由で荷物を持ってあげることもしなかった。彼女に暴力をふるうこともあった。

・その一方で、気に入った女性を不倫に誘った。FSB(KGBの後継)長官時代には、美人記者の取材依頼に応じる形で、モスクワにできたばかりの寿司店を貸し切りにして二人で夕食を取った。だが仕事の話ではなく私的な話題になり、休暇をともにしたいとプーチンが語ったが、彼女は断った。それ以来、彼女の自宅マンション近くで爆弾が破裂する事件があった。女性記者は偶然にも助かったが、身の危険を感じて海外に移住した。

・ヒラリーはフェミニストであり、また反プーチンの民主化デモに賛意を示したためか、プーチンは彼女が大嫌い。(ヒラリーもプーチンには悪い印象しかなく、自著で「地下鉄で股を大きくあけて、傍若無人にどっかり座るチンピラのようだ」と述べている。)

・ただしメルケルとは円滑なコミュニケーションを取る。プーチンはKGB時代に東ドイツ駐在でドイツ語が堪能、メルケルは東ドイツ育ちでロシア語が堪能。

・KGB職員のトップエリートはワシントン、ロンドン、パリなど西側主要国に駐在。その次はアジア、ラテンアメリカなど。最もランクが低いのが東側諸国。プーチンの赴任地は東ドイツ、しかもベルリンではなくドレスデン。KGB本部への報告書は全てベルリン支局を通していた。こうした三流ポストだったのは、プーチンがエリート家庭ではなく庶民の出身だったことも影響している。

・プーチンは東ドイツ時代のことをほとんど語らない。独ソ友好協会の副会長という表向きの肩書で、東ドイツ秘密警察の向かいにあったKGB事務所で働いていた。

・ウラジーミルはロシア人男性によくあるファーストネームで、その愛称をボロージャという。ドレスデン支局では同じファーストネームの同僚と2人で同じオフィスを使っていた。プーチンは「小さいボロージャ」、同僚は「ボロージャ」と呼ばれていた。

・プーチンには小柄であるコンプレックスをぶっとばし、庶民からのし上がってやるという野望があったのだろう。

・ロシアでは賄賂が横行し、権力者に袖の下を払わずして物事を成し遂げることはできない。プーチンは欧州一の金持ちと言われる。総資産はサウジ国王の2倍。スイス製高級腕時計が好きで、彼の所有する数個の腕時計の合計金額は16万ドル。オバマの腕時計は200ドル、ブッシュ息子は50ドル。

・外交政策をはじめ、ロシアのあらゆる最終決定はプーチンの独断で行われる。彼は学者が好きではなく、プーチン時代では政策決定プロセスで学術機関はないがしろにされている。インテリのオバマとは本質的に肌が合わない。

・プーチンのご機嫌がよくなけければウクライナの平和はない。停戦合意はロシア、ウクライナ、フランス、ドイツで行われたが、この場でも事実上の決定者はプーチンだけ。

・国家であれ個人であれ、宥和(対立する相手を寛大に扱い、仲良くすること)とは弱さの表れだとプーチンは考えている。

2022年2月22日火曜日

独裁国家におけるメディアリテラシーの限界

 情報戦やフェイクニュースといった言葉が流行っているが、どんなメディアを信じればよいのだろうか。

 結論を言えば本である。時間があり頭のいい人しか本は読まない。テレビや新聞よりも読者が限定されるためか、ポリティカルコレクトネスも関係なく真実が語られる。ヤフーニュースで配信したら大炎上するようなエピソードもバンバン出てくる。

 5ちゃんねるでも言い得て妙のコメントがあるが、ゴミのような発言も多く、ふるいにかけるのに時間と労力がかかる。信頼できる著者の書いた本であれば、その心配はない。

 もちろん、著者によって意見は異なる。同じ事実でもヒラリーとトランプでは全く違う見解を持つ。このため私は両者の著書を読んだ。

 トランプの主張にも一理あり、わかりやすく書かれてはいる。おそらくライターがインタビューして書き起こしたと思われる。これに対してヒラリーは自ら筆をとり、詳細な調査と事実にもとづき、語彙も豊富である。一言で言えば、トランプは本能と直感で生きる二世ビジネスマンであり白人男性優位主義者、ヒラリーは女性・子供・マイノリティーの権利向上に取り組む政治家であり、生来のがり勉である。

 さまざまな著者の意見を知ることができるのは、自由主義の国で出版された本だからである。

 これが独裁国家ではどうだろうか。

 中国では国営メディアのみならず、書籍も検閲されている。このため中国共産党の見解とは異なる本は出版できない。

 最近、相当な高学歴の中国出身の方と話した。私が上記のメディア論を展開すると、その方は言う。「本を読んだところで、共産党の言い分しか書かれていないし、重要な事実が抜けていて一方的な見方にとどまる」

 例えば、中国と台湾は対立関係にあるが、歴史的に台湾はかなり中国に協力してきた。中越戦争の際には、米国製の大型軍艦を持つベトナムに対抗するには、上海や東北部から中国の軍艦を総動員させる必要があった。

 本来であれば、中国の軍艦が台湾海峡を通過することを台湾は許さないが、蒋介石は中国のためを思って秘密裏に通過させた。結果として、このような事態を想定していなかったベトナムは不意打ちを食らい、中共は戦況を有利に進めて面目を保った。

 にもかかわらず、中共は表向きには蒋介石に感謝もせず、台湾への批判を続けている。蒋介石の功績といった「不都合な真実」を述べた本など中国には存在しない。この方は日本のネット環境によって、ようやくこうした事実を知ることができた。

 こういう話を聞くと、あらためて言論が統制された独裁国家はやばいと思う。日本や欧米でもコロナ関連やウクライナ情勢のニュースはかなり偏っているとは思うが、国家による書籍の検閲までは行われていない。この点はかなり大きな違いである。

 高い知性の持ち主ですら「どうせ本を読んでも、プロパガンダしか書かれていない」と思ってしまう社会はやばすぎる。

 国や社会が危険な方向に行くのを阻止できるのは、民主主義における国民一人ひとりである。そのためにも読者は状況を正しく認識する必要があり、言論統制などあってはならない。

2022年2月20日日曜日

元CIA職員が明かす内部事情(1)

  KGBとMI6については、先日読んだで理解が深まった。CIAも同書に登場するものの、ストーリー展開で必要最小限の記述にとどまる。

 CIAの内部はどうなっているのか。

 じつは元CIA職員の回顧録が積読になっていた。米政府勤務をきっかけに関心を持ち、買って途中まで読んではいた。だが帰宅後もワシントンを舞台にしたドラマや本に触れるのは、当時はお腹一杯になっていた。

 久しぶりに本棚から取り出して読みはじめた。先ほどのの著者はThe Timesのベテラン記者で卓越した文章力に引き込まれたが、このCIA本はそれほどのインパクトはなく、著者のCIA勤務年数は5年にとどまる。それでも元CIA職員が語る内部事情として「へえ、そうなんだ」という事実は出てくる。

 とりあえず58ページを読んだ感想をまとめてみたい。

 著者のLindsay Moranはハーバード大卒の女性。父親は国防総省の職員。祖父は「陸軍のエンジニア」で海外生活が長く、いつも駐在国で予期せぬテロが起きて政府を転覆させていた。二人とも本当の勤務先はCIAだったのではないか、と感じている。著者は子供の頃からスパイ小説を読むのが好きで、将来はジェームズ・ボンドのようになりたかった。

 新卒でCIAの採用説明会に参加したが、担当者が魅力的に思えず断念。英語教師としてブルガリアで1年を過ごしたあと、まだCIAへの関心はなくならず再びアプローチする。今度は採用担当者がカッコいい男性でやる気になり、応募書類を提出して見事内定を得る。

 CIAは4つの部門に分かれている。1)科学技術 2)管理部門 3)分析 4)諜報活動。いわゆるスパイは4)に所属するcase officerである。

 だがcase officerが自ら盗聴器や隠しカメラを設置したり、標的の施設に潜入して極秘文書を盗んでくるわけではない。機密文書にアクセスできる人物に近づいてリクルートし、彼らから情報を入手する。

 こうした実際の「CIA工作員」となるのは外国人であり、CIAはなんらかの弱みを持つ人物をターゲットに選ぶ。酒好き、結婚生活や仕事に行き詰まっている、難病の子供がいる、多額の教育費がかかる、など。こうした人々に高級な酒や食事をふるまい、子供の医療費を払い、アメリカの大学に子供を留学させて高い学費を肩代わりし、こうした報酬と引き換えに機密情報を得る。

 CIAでは工作員の質よりも数を重視する。特に難しいターゲットであるロシア、北朝鮮、中国では、とりわけ人数のほうが質よりもはるかに重要である。(このあたりが、工作員の持ってくる極秘情報のレベルや工作員との長期的な人間関係を重んじるMI6との違い、という感じがする。)

 著者は新入職員の頃にCIA本部でカザフスタンを担当した。最初の仕事はカザフ工作員と同伴する妻たち御一行様への訪米サポートだった。ホテルとレストランの予約、貸し切りバスの手配、娯楽施設(DC周辺のおっぱいパブ)の詳細な調査、売春の斡旋、男性工作員が夜遊びをしている間に妻たちが行う観光プランの立案、お土産としてCIAロゴつきのグラスとボールペンを売店で購入、といった内容である。

 このような泥臭い仕事もあるためか、同僚case officerのほとんどは男性だった。採用候補として若手共和党員が好まれる(ウォーターゲート事件に元CIA職員が深く関わっていたのも、このためだろうか。)新入職員の研修では「ひとりの娼婦と2回以上会わない限り、買春を報告しなくていい」と説明される。同じ売春宿に何度も通っても、その度に違う娼婦であればOK、ということだ。

 case officerには元軍人が多く、元警察官もいるが、学者やアイビーリーグ出身の高学歴者はめずらしい。このため、がり勉タイプの多い国務省と自らを比較し、CIA職員のほうがパーティーで目立つ存在だとか、CIAでは全天候型SUVを支給されるし、どこへ行くにもビジネスクラスで、この点でも国務省とは違うと言ったりする。(国務省などの官庁では14時間以下のフライトはエコノミーという規則がある。)

 現在のバーンズCIA長官は、国務省出身者として初めてCIA長官に就任した。こうした官庁間のライバル意識を緩和したいという政権の狙いもあるのだろうか。

 先日紹介したにも登場したAldrich AmesやJim NicholsonがKGBにCIA内部情報をもらしたことで、CIAは組織全体で大きなダメージを受けた。この反省に立ち、現在のCIAでは入手した情報を細分化し、各職員には必要最低限の内容しか知らされない。だが実際には、廊下での立ち話やコンピューターシステムのエラーによって、本来知るべき内容をかなり超えた情報が伝わっている。

2022年2月17日木曜日

特別展「ポンペイ」 2000年前のイタリアを満喫

  東京国立博物館で開催中の特別展「ポンペイ」を見学した。

 紀元前7世紀末にイタリアのナポリ郊外に建設された都市ポンペイは、紀元79年にヴィスヴィオ火山の噴火による火山灰でわずか1日で埋没した。18世紀半ばに農夫が発見、現在ではポンペイ全体の25%まで発掘が進んでいる。

 過去には「大ポンペイ展」が1976年に三越本店で開催され、家族で訪れて感動した。私はまだ9歳だったが、約2000年前の干しブドウまで残っていたのが最も印象に残っている。今回も干しブドウが展示されていて感慨もひとしお、さらにはパン、イチジク、キビもあった。約半世紀をへて発掘と補修技術が進み、解説の映像も高画質でインパクトがある。

 会場の東京国立博物館は上野公園にある。上野駅の公園口を出て、ヨーロッパ風のカフェと東京文化会館を両脇に見ながら歩く。さらに国立博物館へ向かい右手に行くと、大きな広場になっていて噴水がある。


 あれ、上野ってこんなに素敵だったかな? というか国立博物館に前回来たのは高校の遠足だった気がする(😅)。それにしてもテキトーな高校だったな(笑)。現地集合、現地解散。出席も取らない。生徒としては休日が1日増えた気分、先生はラク、まさにWIN-WIN。帰りに友達の第一希望だった上智大の学園祭に2人で行った。楽しい一日だったな。

平日の午前はガラガラ

 コロナ対策で入場制限を行い、事前にネットで時間指定の枠を押さえるよう主催者は勧めているが、平日でどの枠も空いていた。現地に直行したところ、私が到着した午前11時46分には予想以上にガラガラだった。 


 ただし午後になると混み始め、夕方の閉館前には土産物店で長蛇の列ができていた。あとで詳述するが、特別展のチケットで平常展も見学でき、全て見ようと思うと膨大な時間がかかる。このため早めに到着することをお勧めしたい。

 ポンペイ展は「平成館」という新しい建物で開催されている。


 コートや荷物はロッカーに預けられる。100円玉を入れてカギを締め、帰るときに戻ってくる。

 
 以前は博物館や美術館で撮影OKなど考えられなかったが、最近ではフラッシュを炊かなくてもカメラが自動的に光を調節してきれいな写真を撮れるようになった。主催者としてもSNSやブログで拡散してくれれば宣伝になる、ということなのだろう。


 前回の「大ポンペイ展」では、いかにも火山灰から出てきたようなススのこびりついた品々が多かったが、今回は汚れがきれいに落とされ、おそらく修正も加えられたと思われる美品が目立つ。


 こうした華々しい生活を支えたのは奴隷労働だった。奴隷の足を固定して逃げないようにする道具が生々しい。


 この絵は「お金持ち(左側)も貧乏人(右側)も死ねば同じこと」を意味している。


 台所用品も充実している。これはお好み焼きではなく、パンを焼く道具らしい。


 計りに使うおもり。


クライマックスは「食べ物のミイラ」

 最大のハイライトはここ❣ 約2000年前の干しブドウと再会し、思わず感動😍


 さらには完璧なまでのパンの「ミイラ」はまさに圧巻!!😂


 炭化してはいるものの、ここまでリアルな形だと思わず「食べられるのか?」と思ってしまう。そんな妄想を実現するお土産が売られていて、思わず買ってしまった(😜)


 ちなみに2000年前のパンは大人気で、クッション、小物入れ、マグネットといったグッズも販売している。


天然石を生かしたイタリア美術の粋 

 干しブドウと同様、この犬は1976年の「大ポンペイ展」にも登場した。


 今回は猫もいる。


 これらの絵は天然石を使ったモザイク画である。この微妙な色合いが人工ではなく、全て自然に存在する石をそのまま生かすという技法のイタリア芸術には驚嘆する。

 もう10年以上前になるが、フィレンツェを訪れてふと立ち寄った画廊で一目ぼれ、思わず衝動買いした作品も全て天然石を使用している。


 日常の至るところに彫刻があるのも、いかにもイタリアらしい。


 先ほども少し紹介したが、ほかの美術展と比べても土産物の種類はかなりある。公式サイトでも販売しているが、現地でしか買えない商品も多い。カタログは2,900円とややお高めだが、立派なつくり。裏表紙には先ほどの猫、別の絵柄(蛇)の2種類があり、どちらかを選べる。


 特別展・ポンペイのチケット(2,100円)には、国立博物館の全ての平常展への入場料が含まれている。平成館には埴輪など日本の古代美術、琉球王国の展示がある。本館では日本の古代~現代に至る美術を一通り見ることができ、とくに日本刀のコレクションや解説が充実している。

 これだけでも回るのに半日かかったが、ほかに東洋館、法隆寺宝物館、黒田記念館(黒田清輝の作品)、資料館も見学可能。これらを全て見ればかなり元が取れると思うが、1日で回るのは厳しくかなりクタクタになるだろう。

 入場時間の枠は割り当てられているものの、いったん入ったあとはチケットを見せればポンペイ展には何度でも出入り自由で、平常展では入場券のチェックもない。

 このためお土産を買う場合には、平常展を見たあとにポンペイ展に戻ってきてから買ったほうが、荷物を持ち歩かないですむ。各館にロッカーはあるようだが、その度にロッカーの場所を探すのも時間がかかる。

食事は屋台とオークラの二択

 とにかく全て見るとなれば、長丁場になるのは間違いない。平成館の前には軽食の屋台とベンチがあるが、この寒さの中では外で食べるのは厳しい。


 このほか敷地内にはホテルオークラの経営するレストラン「ゆりの木」がある。


 公共施設といえば庶民的な食堂というイメージだが、高級ホテルが入っているとは意外だ。国立博物館の経営は独立行政法人のため、年々減額される交付金を補うべく富裕層をターゲットにしているのだろうか。

 だが思ったより高くはなく、五目焼きそば(1,280円)を注文。私の好きな頤和園ほどの量はないが、お上品な盛り付けでイカの切り方も美しい。一人暮らしではここまで凝った調理はしないので、しばしセレブタイムを満喫。


 周囲を見渡せば、平日の昼間にこうして優雅な時間を過ごしているのは、ほとんどが女性である。働くしか選択肢のない多くの男性と比べて、いろんな生き方のある女性のほうが長生きする理由は、このへんにあるのではないかと思う。

2022年2月16日水曜日

格安スマホを長持ちさせるコツ

 昨日電車の中で突然、スマホの電源が切れた。

 まさかサイバーテロ?という想像も一瞬よぎる。最近の私は本音を言いたい放題なので、それで怒っている人もいるのだろうか。

 まあ考えすぎだろう。今のスマホは3年半も使っている。買った当時はほかに職場から支給されたiPhoneがあり、仕事の連絡はそれで事足りていた。私はほとんど私用電話をしないため最低限の機能があればよかったので、アマゾンで最安値だった中国製のスマホを買い、9,363円だった。

 さすがにもう寿命かもしれない。ビックカメラで最新式のスマホを見る。最低価格は2万円程度。地元のモールでもチェックするが、商品の数がかなり少ない。このあたりに田舎を感じるが、生鮮食料品など生活必需品の品揃えは都心をはるかに上回る。

 帰宅後にヨドバシとアマゾンのサイトを調べる。Xiaomiとか、いかにも中国語っぽいメーカーの品が並んでいるが、これだけだと四声はわからない。

 iPhoneの最新式は12万くらい。電気製品と言えば、かつては日本企業しか考えられなかった。現在のSonyは動画発信に必要な機能を充実させたプロ仕様のスマホを出しており、値段はiPhone最上位機種の2倍もする。

 翌日になると、スマホさまのご機嫌は直っている。エアロバイクで30分こぐ間にずっとYouTubeの動画を再生していたが、あまり電池は減っていない。これならあまり使わないようにして、4周年を迎えるのを目標にしようか。

 フェイスブックもつい見てしまうが、強度近視+老眼を考えれば、なるべく控えたほうがいいだろう。

 SNSの健康影響も懸念されている。フェイスブック元社員の内部告発者が米国上院の公聴会で行った証言によれば、同社はあまりにも利益至上主義で利用者の健康をまったく考えていない。心理学などの専門分野を持つ社員を雇ってはいるが、会社の意思決定に利用者のメンタルは考慮されていない。

 例えば、事業計画で2つの選択肢があるとしよう。1つは利益が10万ドル出るが、利用者の健康には配慮しない。2つめは利用者の健康に配慮した結果、利益は1ドルだけ少なくなる。そうした場合、フェイスブックの重役は迷わず最初の選択肢を取る。どんなに利益の差が小さかろうが、とにかく利益が多く出るほうを選ぶのが同社の特徴である。この元社員はGoogleの勤務経験もあるが、企業倫理はGoogleのほうが優れていると感じている。

 上記の公聴会はSNSの子供への悪影響をテーマに開催されたが、子供に悪影響があるなら、大人にもあるだろう。

 海外在住の友人とのコミュニケーション、またコロナ禍のソーシャルディスタンス生活でなかなか会えない人々との交流にSNSは一役買っている。その一方で、とくに自宅での軟禁状態でストレスがたまっている状況では、他人のちょっとした日常報告にうらやましくなったり、マウントを取られたと感じることもある。

 フェイスブックは米国の産物であり、アメリカ人が書くクリスマスカードに似ている。いかに自分の人生が素晴らしく完璧であり、成功と幸せに満ちあふれ、身内の死去といった悲しい出来事ですら、本人がいかに世界一の偉人で多くの人々に愛されたかが強調される。同じ英語圏でありながら、イギリス人の得意とする自虐的なギャグや、残酷なまでの客観性とは明らかに一線を画している。

 この張りつめたような高揚感に満ちた報告は、北朝鮮のアナウンサーによる自国の自画自賛をも彷彿とさせる。そう、フェイスブックとは各人によるプロパガンダであり、プレスリリースなのだ。

 話がややそれたが、物を大事に使い続けるのは環境対策の基本である。エコを推進するためにも、なるべくスマホを休ませつつ長生きしてもらおう。

2022年2月14日月曜日

イギリス英語とアメリカ英語にみる 微妙な英米関係

 コロナ禍のソーシャルディスタンス生活で、とくに一人暮らしにとって重要なのは、なにげない日常会話である。

 それが私がオンライン英会話をやっている目的の一つで、昨日はネットスーパーの話題になった。具体的に買った商品を"ブロッコリー、マッシュルーム、トマート。。"と羅列していくと、イギリス人の先生が間髪を入れずに言う。"Thank you!!! for saying tomaato, not tomeito!! That made my day!!!"

 おおっ、そんなにうれしいのか(😅)。日本語はトマトだから"トマート"と言うほうが"トメイト"よりラクというのもあったかもしれないし、相手がイギリス人なので瞬時に判断してトマートと言ったような気もする。

 しかしながら、ほかの単語、例えばcastleをカーソゥ、ましてやcan'tをカーントゥと発音するのは、中学生の頃にNHK基礎英語のアメリカ人講師の発音がすりこまれた私にはややハードルが高い。例えて言えば、フィギアスケート選手がジャンプする直前にやや身構える、みたいな不自然さが出てしまう気がして、ついキャーソー、キャーントゥと言ってしまいがちだ。

 だがイギリス人にとって、英語学習者がイギリス英語の発音で話すのがこれほどうれしいなら、今度からもっと注意してみよう。

 あとはそうだな、サンドイッチを買うときにtunaを"トゥナ"と言ったら、店員の年配女性に"トューナ"と言ってみろと教えられ、その場で何度も発音練習をしたこともある。学生の頃に初めてイギリスに行ったときの話で、アジア人のベビーフェイスで子供に見られたのかもしれない。

 ちなみにイギリス人の友人はPutinを"ピューティン"と発音していた。アメリカ人は"プートゥン"である。

 英米の語彙の違いについては、holidayではなくvacationと言ったら、"That's American!!!!!"と烈火のごとく怒った友人もいた。holiday vs. vacation問題については、アメリカ人でもholidayと言う人はいるし、アメリカでもholidayと言って十分に通じるので、holidayに統一してしまえば一件落着である。

 表立って不満を表明するかどうかは別として、ほとんどのイギリス人がアメリカ英語を嫌いなのは確かだが、アメリカ人はイギリス英語が嫌いではなく、むしろ大好きで尊敬している。

 日本人との会議でイギリス英語を話す相手がいれば、帰り道でアメリカ人同僚は「〇〇さんはイギリス英語だね😍」とうれしそうに話し、その態度には敬意が感じられる。

 日本人がアメリカ英語を話しても当たり前みたいな感じになってしまうが、きれいなイギリス発音で話す日本人はそれだけで結構な高さのゲタを履くことができる。なのでイギリス英語を話せる人がアメリカ人を喜ばせる目的で、わざわざアメリカ英語を話す必要はまったくない。

 ちなみにアメリカ人受けするイギリスの大学の断トツ1位はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)である。もちろん分野による違いはあるが、社会科学系ではオックスブリッジより好印象で、アイビーリーグと同等かそれ以上の位置づけだと思う。このためLSEに留学するアメリカ人は結構いる。

 私が米政府を休職してイギリスに留学したいと思ったとき、LSE一択で同校しか出願しなかったのも、この理由である。LSEなら上司が納得してくれるのではないかと考え、実際にそうなった。

2022年2月13日日曜日

ウクライナ情勢 中国の分析

 ウクライナ情勢について欧米以外の視点を先日紹介した

 ロシア外務省および元ウクライナ日本大使の馬渕睦夫氏は「米国が危機をあおっている」と述べ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「西側諸国はパニックを作り出すな」と語った。

 中国も「米国による危機説」を唱えてはいるが、米国の意図については分析がやや異なる。

 "Global Times"は中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の英字誌で、中国関連の報道、例えば香港に関する記事は「真っ赤なウソ」じゃないか(笑)と思う部分もあるが、国際情勢については鋭い分析もある。

 昨日の記事では、中国の学者によるコメントを紹介。ウクライナ側が最初に攻撃しない限り、ロシアがウクライナを侵攻する必要はまったくない。米国が非現実的な危機を必死であおる理由は、国内事情があるからだ、と。

 ウクライナ情勢が悪化すれば、欧州の資金が安全な米国に流れてインフレ圧力が弱まるだろう。このような操作を米国は過去にも行ってきた。(米国のインフレ率は昨年12月に7%に達し、国民の7割がバイデン政権の対応に不満を持っている。)

 ロシアとしては軍備を維持しつつ、ウクライナを攻撃しないのが最善の選択肢である。そうすればNATOはリスクのあるウクライナを加盟させたくない。本当の戦争などロシア、ウクライナともできる経済状況にない。双方が落ち着いた状態を続ければ、米国がNGOなど自国の代理を使って対立を作り出す可能性がある。ロシアの侵攻ではなく、そのような動きこそ注視すべきだ。

 西側諸国とは異なり、中国政府はウクライナ在住の中国人に退避勧告は出しておらず、変化する状況への注意を促すにとどまる。ロシアの侵攻ではなく、米国によるウクライナ情勢への干渉を中国は懸念している、という。

 

2022年2月12日土曜日

勝ち組の論理はどこまで通用するか?

  米国はGDP世界一を走り続け、一人当たりGDPでも63,358ドル(2020年)で5位。その一方でロシアのGDPは11位と韓国(10位)を下回り、一人当たりのGDPでは10,115ドルで64位。62位の中国(10,511ドル)よりも少ない。

 こうした数字をみると、ウクライナ情勢ではジャイアン(米国)がのび太(ロシア)を挑発していじめているような感じがしなくもない。

 在ロシア米大使を務めたバーンズCIA長官はこう話す。「プーチンは戦術には長けているが、長期的な戦略はない。もしあれば人材を育てて化石燃料に頼らない産業構造をつくり、経済を発展させるだろう」

 たしかに米国はこうした戦略で勝ち組となり、PCやスマホ、ファーストフード、ショッピングモール、ネット販売を世界中に普及させた。

 そうした中で女子大が存在し、女性の能力開発や社会進出に寄与している。ヒラリー氏は名門女子大のウェルズリー大学で自治会長や政治グループの代表者を務め、卒業生総代スピーチを行った。当時の共学校では男子学生に押されて女子学生にはこのような体験はできず、女子大に通ったことでリーダーとしての資質を磨くことができた、と彼女は振り返る。

 つまり強者のいない環境を作り出すことで、弱者が成長する機会が与えられる。

 適切な例えではないとは思うが、知的障碍者の施設が存在する理由も似ている。生まれつき知能の低い子供が健常児と同じ学校に通っても、自分に最も適した教育を受けることは難しい。

 もっと言えば、そもそもヒトの知性にはかなりのばらつきがある。「健常であれば人間はみな同じレベルの知能を持って生まれたと漠然と信じている、あるいはそう信じたいと思う人は多いのだが、それは違う。残酷な話ではあるが、背の高さがバラバラなのと同じように、各人の能力や知性も千差万別なんですよ」と精神科医の益田裕介氏は言う

 では世界全体をひとつの学校に例えたら、どうだろうか。

 お金持ちの家に生まれ、両親から高い知能の遺伝子をもらった男の子が勝ち組として独走する。ビル・ゲイツは典型例である。ビル・クリントンのように恵まれない家庭に生まれた成功者もいるが、おそらく彼には卓越した頭脳が備わっていたのだろう。

 そう考えていくと「世界はひとつ」という、理想のように思われている概念にも疑問が生じる。

 他者を理解することは重要だが、一体化する必要はない。友情を育むのはよいが、結婚しなくてもいい。女子大が共学校と交流してもいいが、共学にならなくてもいい。そのほうが「弱者」が成長する余地が生まれ、結果として勝ち組になれる。

 ハリウッド映画はわかりやすくて気軽に楽しめる。だがハリウッド映画やアメリカのドラマばかりでは味気ない。だからこそ日本政府は税金を使ってでも国立劇場を建て、歌舞伎座がやらない古典の通し上演、復活上演、新作発表を行い、日本文化を守ろうとしている。

 農業や漁業の補助金、地方交付金も同じ考えなのだろう。東北と関西では、観光地として同じ土俵で戦えない。一年の半分を雪に覆われる地方では、どんなに頑張って秋田犬キャンペーンを展開しても、温暖な和歌山県の人寄せパンダほどの集客はできない。では秋田犬や十和田湖がなかったらどうだろうか。日本の素晴らしい魅力のひとつが失われてしまう。

 同じようにロシアにはロシアのやり方があり、米国の発想ではうまく行かないかもしれない。化石燃料をうまく利用しつつ経済を回していくことで、ようやくGDP11位を保っている、という見方もできる。

ウクライナ情勢とNATO 欧米以外の視点

 ウクライナ情勢について欧米メディアは「ロシアが国境軍備を増強、いつ戦争が起きてもおかしくない」と伝えている。
 
 バイデン大統領はウクライナ在住の米国民に即時退避を促し、日本の外務省もウクライナの在留邦人に退避勧告を発出した

 ロシア外務省の報道官は「緊張をつくっているのは米国だ」と反論。アングロサクソンはどんな犠牲を払ってでも戦争を必要としている。挑発、デマ、脅しは常套手段であり、米国の軍事政治はまたもや人命を奪おうとしている、と。ロシアのラブロフ外相は「我々は侵攻ではなく外交に忙殺されているが、話す相手(米国)は耳が聞こえないようだ」としている。 

 ウクライナのゼレンスキー大統領は先月末「西側諸国はパニックを作り出すな」と述べた。フランスのマクロン大統領はモスクワまで出向いてプーチン大統領と5時間も会談し、「プーチン氏は自ら緊張を高めないと言った」と記者会見で語った。 

 情報が錯綜しているように見えるが、実際はどうなのだろうか。

 新聞・テレビ・通信社電などは字数や放映時間の制限から、どうしても手短に最近の出来事を追う報道になる。また欧米の見方が主流となり、ロシア側の言い分があまり伝わってこない。

 素朴な疑問として、米国は欧州ではないのに、なぜ欧州の安全保障に口を挟んでくるのだろうか。

 大量破壊兵器もないのにイラクを攻撃、アフガンにも攻め込んだかと思えば、バイデン大統領は国務長官の助言も聞かずにいきなり撤退。あとは野となれ、山となれ、という無責任さである。

 米国内でもバイデン政権のやり方に疑問を呈す人も出てきた。"Foreign Affairs"誌は「冷戦時代につくられたNATOは時代遅れであり、大きすぎて挑発的すぎる」とする歴史学者の寄稿を発表した。

 大西洋を隔てた米国とは違い、ドイツやフランスなど欧州各国はロシアの天然ガスや石油に依存し、歴史的なつながりも深い。

 ロシアの繁栄を築いた女帝エカテリーナ二世は、ドイツ出身である。クレムリンの「武器庫」(実際には博物館)には歴代ロシア皇帝へ欧州各国から贈られた装飾品が並んでいる。これらの贈答品を製造したのは全てドイツだった。

 かつてロシア貴族の公用語はフランス語で、トルストイの大著「戦争と平和」は原書でも貴族同士の会話部分はフランス語で書かれている。フランスに留学した貴族も結構いた。

 こうした長い歴史、大きな利害や特別な感情のからむ欧州とロシアの関係に、部外者の米国が首を突っ込んでくることを不快に思う関係者もいるだろう。

 米国とカナダ、米国とメキシコの間にも近隣ならではの様々な利害関係がある。米国で医療保険に入れない患者がカナダの病院に診察を受けに来たり、あるいはメキシコから米国へ不法移民が押し寄せている。こうした問題に欧州や日本が介入してきたら、当事者は「うぜえな、お前には関係ないだろ」と思うことだろう。

ネオコンが危機をあおる

 在ウクライナ日本大使を務めた馬渕睦夫氏の解説はこうだ。ロシアの国境軍備拡張など欧米メディアが騒ぎ立てているだけで、なんの証拠もない。バイデン政権の背後にいるネオコンがフェイクニュースを流し、ロシアを挑発して危機をあおっている。

 前回のウクライナ危機に関しては2015年2月、ウクライナ・露・仏・独の四カ国で停戦に合意した。米国は蚊帳の外に置かれ、これに対してネオコン投資家のジョージ・ソロスは同年4月1日にニューヨークタイムズ紙への寄稿で不満を表明した。「これでは何のために自分たちがウクライナ危機を起こしたのかわからない」とまで言っている。

 つまり戦争が起きれば、米国の軍需産業は受注が増え、当事国は武器を買うため英米系金融機関に借金をして、我々はうるおうのにと言いたいのだろう。

プーチンの米国・NATOへの不信感

 プーチン大統領は2007年にミュンヘンで行った演説でこう述べている。

 東西冷戦が終結してソ連は平和的にロシアに移行し、ベルリンの壁は崩壊した。にもかかわらず、NATOは拡大を続けて軍事的な壁を東へとのばしつづけている。1990年にNATO事務総長Woernerは「ドイツ以外の領土にNATO軍備を置かない準備はできており、これによってソ連に安全を保障する」と述べたが、こうした保障はどうなったのか?

 2021年12月17日、ロシア外務省はプーチン大統領が提案した「NATO東方不拡大を保証するための米露2国間の条約案」を公表した。同条約案は米国に対し「NATOに加盟していない旧ソ連諸国の領内に軍事基地を持たない」「これらの国々の軍事施設を使用しない」ことを求めている。

 防衛大卒の元自衛隊幹部である横山恭三氏は、この提案はロシアによる米国への根強い不信感の表れだと解説している。「プーチン大統領は、日頃から米国は簡単に約束を反故にするため、同国が提案する安全保障上の保証については信用できないと主張している。そこで、今回は法的拘束力のある条約を提案したのであろう」

手のひら返しを繰り返す米国

 たしかに国際関係で米国は手のひら返しを繰り返している。米国大統領が信頼できる例として、ブリンケン国務長官はケネディ時代の1962年にまでさかのぼった。米中国交正常化の交渉では、カーター政権にちゃぶ台返しをされて鄧小平が激怒した

 敵対する2つの政党が政権交代を繰り返し、米国は過去の政権が約束したことは関係ないという態度すら取る。例えば京都議定書、パリ協定、TPPなど。

 TPPに知財など凍結項目がある理由は、もともと米国が提案した内容だからであり、他国には関係がないため、米国が戻れば「凍結項目だけレンジでチンすればいい」(甘利氏)という仕立てになっている。

 アメリカが国内政治で世界中を振り回すことに、いい加減にしてくれと思う向きも多いだろう。ロシアや中国のような長期安定政権のほうが一貫性があり、信頼できるという見方もできる。

 ロシア国営放送RTは、プーチン大統領によるミュンヘン演説が今日でも意義があると強調し、概要版をYouTubeに昨日アップした。

 プーチン氏の発言にうなずく人もいるのではないか。

"The United States has overstepped its national borders in every way. This is visible in the economic, political, cultural and educational policies it imposes on other nations. Well, who likes this? Who is happy about this?"

自国を守る決意

 まあ、このような現象は時代や場所を超えて起きる。バブル時代の1990年には三菱地所がロックフェラーセンターを買収して「ジャパンマネーが米国の魂を買った」と批判された。現在では中国による土地購入、孔子学院を通じたスパイ活動などが警戒されている。

 個人的にはロシアや中国のような民主主義や言論の自由が制限された社会で暮らしたいとは思わないが、世界全体が米国のように見える状況も望ましくない。ディズニーランドだけでなく西武園も存在しつづけてほしい。米国のまねをして法科大学院制度を採り入れたのがよかったのか、関係者の間でも意見が分かれるようだ。

 ロシアを観光で訪れた際には、欧米風の街角もある一方で、伝統的なロシアの宮殿、美術館、天然石、宝物、ユニークな建物、音楽などに魅了された。こうした文化・伝統を守るためにも、米国が自国の領域に踏み込んでくることにロシアは危機感を覚え、どうにか阻止したいのだろう。

 米国にしてみれば、2016年大統領選でロシアに介入されてトランプ大統領が当選、大混乱に陥った。どうにかしてロシアを弱体化させようとウクライナ危機をあおっている、ということでもあるのか。

2022年2月10日木曜日

妻の役割とは何か?

  しつこくて恐縮だが、KGB職員のノンフィクションでふと疑問に思った方もいるかもしれない。彼には家庭があったのか? だとすれば妻や子供はどうなったのか?と。

 前述したように、意外にもKGB職員の離婚経験者は結構いた。愛情というよりも、おたがいの都合で相手を選んでうまく行かなくなるケースが多い。

 主人公Gordievskyの最初の結婚もこのパターンだった。妻のYelnaはKGB勤務の翻訳者でフェミニストを自称し、二人とも外国に行きたくてたまらなかった。彼女にとって優秀で海外駐在の可能性が高い彼は「モスクワを出るためのパスポート」だった。

 それまでGordievskyは同級生の平凡な女性と何人かつきあったが、満足せず長続きしなかった。彼はYelnaの機知に富んだ鋭いユーモアのセンスに魅かれたものの、多くのソビエト男性と同様、妻にはつべこべ言わず料理や掃除をすることを求めた。彼は子供を望んだが、彼女は望まず、彼に無断で堕胎した。それをきっかけに二人の関係はますます冷え込んでいった。

 デンマーク駐在中も夫婦仲は改善せず、Gordievskyは現地で知り合った女性Leilaと不倫関係をはじめた。彼女はWHOのタイピストでKGB職員の娘だった。

 離婚は出世に不利に働くものの、Gordievskyは妻との冷え切った関係を解消し、海外駐在から帰国後にLeilaと再婚した。彼女は明るく優しい家庭的な女性で、やがて2人の娘に恵まれ、家事と育児を完璧にこなした。

 Gordievskyは彼女を愛していたが、信用はしていなかった。MI6との二重スパイ生活は極秘で、知っているのはMI6のごく限られた人々だけだった。

 再婚した妻は現状に疑問を持たない「KGBファミリーの一員」であり、Gordievskyは彼女にも自分の本当の姿は隠したままだった。モスクワから逃亡する前に妻の意思を探るため、冗談半分で「休暇に行くふりをして、家族でイギリスに逃げようか?」と聞く。Leilaは「バカなことを言わないでよ」と一蹴し、Gordievskyは単身で逃げる決意を固める。

 Gordievskyの逃亡後、KGBは彼の行方がわからず、Leilaに厳しく尋問する。彼女はこう答える。

"I was a wife. My job was to clean, cook, shop, sleep with him, have children, share the bed and be his friend...For six years of my life I was a perfect wife...You, the KGB, you have thousands of people with salaries whose job was to check up on people...You didn't do your job. It wasn't my job, it was yours."

 まさに正論というか。

 さらには妻の役割について下線部ほど明確な説明を聞いたことがない。

 そうか、そうだよね。だから私には向いていなかったのか(😅)。こりゃ退屈だわ。しばらくはいいかもしれないが、そのうちに飽きちゃうだろう。それで友人は専業主婦になるため寿退社したのに、二か月でまた働きはじめたのか。わかる、わかる。

 何十年も同じ人と同じことをやっていたら、かなりマンネリ化するだろう。だから世間には不倫したり、離婚する人も結構いるのだろう。

 まあ私はおそらく世の中のことがよくわかっていない、もしくは修業が足りないのかもしれない。ただ、妻という役割に向いていないことはわかる。

 

2022年2月9日水曜日

東西冷戦の舞台裏から国際情勢を読み解く

 これまで数回にわたって紹介してきたノンフィクションを読了した。

 冷戦時代のKGB職員Oleg Gordievskyがデンマーク駐在中にMI6にリクルートされ、11年にわたりKGBの機密情報をMI6に提供。彼はKGBロンドン所長に昇進するが、MI6から情報提供を受けていたCIA職員の裏切りで身元がKGBに暴露され、モスクワに呼び戻される。スターリン時代に無実の市民を大量殺害した反省から、KGB本部は厳正な法的手続きと証拠入手にこだわり、Gordievskyにあの手この手で自白を迫る。

 この間にMI6は数年前から準備していたGordievskyの救出作戦を発動。盗聴器や監視カメラだらけの在モスクワ英国大使館やGordievskyのアパートの監視をかいくぐり、あらゆる危機を切り抜けてソ連を脱出、イギリスに彼を連れ去る作戦に成功する。

 Gordievskyがロンドン駐在中にソ連の内部情報を英側に提供したことで、すんでのところで米ソ核戦争が回避された、というくだりはすでに紹介した

 ここでは最近の時事問題の背景を知るうえでも参考になる内容を取り上げてみたい。

ロシアとフィンランドの微妙な関係

 ウクライナ情勢が緊迫しているが、同じくロシアと長い国境のある隣国フィンランドはほとんど話題に出てこない。というのも、フィンランドはソ連時代から事実上ロシアの属国となっているためNATOに加盟できず、国内に西側の軍備を配置することもできない。ソ連時代には反ソ連の書籍や映画が禁止され、フィンランド当局がソ連からの亡命者を発見したらソ連に強制送還する取り決めになっていた。

 このようにロシア周辺の小国がクレムリンの支配下にある現象を指す"Finlandization"という言葉まである。フィンランドは欧州の一員でありたいと思ってはいるが、現実問題としてロシアの影響は免れられない。

 ただソ連時代にはロシア駐在の西側外交官や実業家が休暇や気晴らしにフィンランドを訪れることはよくあり、現在でもロシア観光のついでにフィンランドも楽しむ旅行客は多い(コロナ禍では厳しいかもしれないが)。このような経済効果もあるため、ロシアとの関係を良好に保つために政治的な妥協を受け入れているのだろう。

 ちなみにスエーデンもNATO非加盟だが、ノルウェーはNATOに加盟している。MI6がGordievskyをイギリスへ連れ出すルートとして、外交特権で大使館公用車のトランクを開けてチェックすることは禁止されているため、まずは人目につかない場所でGordievskyと落ちあい、彼をトランクに入れて無事に国境を通過してフィンランドに入国した。

 しかしながら、フィンランド内の空港はソ連に厳重に監視されているため、ヘルシンキから空路ロンドンに向かうのは不可能と判断。ノルウェーはNATOに加盟しているため、このようなソ連の監視はなく、フィンランド国境に最も近いノルウェーの都市ハンメルフェストから偽造パスポートで国内線に乗り、オスロで国際線に乗り換えてヒースローに到着、というルートを選んだ。

 なにが言いたかったかといえば、NATO加盟によってロシアの監視は制限され、結果として軍事面以外でも自国の判断で動けるメリットがあるため、ウクライナはNATOに加盟したいのかもしれない。

西側最大の裏切り者はCIA職員

 これまでも紹介したように、CIA職員のAldrich Amesは自分の仕事が思ったより退屈で給料が安く、人生が行き詰っていると感じていた。狭い賃貸アパート暮らしに嫌気が差し、また離婚して再婚相手は金遣いが荒かった。

 まとまった金を入手して妻の買い物、高級レストランでの夕食、盛大な結婚式、新居への引越、車の購入に充てるため、AmesはCIAソ連担当者として得た内部情報をKGBに売ろうと在DCソ連大使館にアプローチした。西側に協力するソ連諜報部員のリストと引き換えに、5万ドルを要求。KGBは複雑な巨大組織で動くのに時間がかかるのが常だが、この時ばかりは即座に長官の承認が下りた。

 このリストにGordievskyの名前がほのめかされていたらしいが、CIAはどのように彼の身元を知ったのか。その経緯はこうだ。

 MI6は情報源を守るため、Gordievskyから得た内容についてCIAには必要最小限の情報しか提供せず、彼の身元は明かさなかった。CIAはMI6が情報の出し惜しみをしているとイライラし、なんとしてでも情報源を聞き出そうと、CIAロンドン所長がMI6ソ連担当者にモラハラを働いて脅すこともあった。

 これとほぼ同じ時期に、CIAはスイスの腕時計メーカーと提携して高性能の隠しカメラを開発した。ライターの形をしていて実際に火もつき、ライターとしても使える、という「優れモノ」だ。MI6は資金難で時代遅れの隠しカメラしかなく、CIAの新型カメラを提供してほしいと頼んだ。この依頼はCIA長官にまで行って承認は下りた。CIAは誰が使うのかと尋ねたが、MI6は回答をしぶった。

 のらりくらりとした態度に怒りを募らせたCIAソ連部長Burton Gerberは「MI6の情報があいまいで出所不明」とケチをつけてCIA上層部に訴え、レーガン大統領の了解まで得て本格的に情報源の特定に乗り出した。Gerberの指令を受けた部下のAmesは過去の事実関係を洗い出し、おそらくGordievskyではないかという結論に至った。

 驚愕することに、Gordievskyの逃亡後もAmesはCIAが入手した大量の機密情報や内部文書をソ連に渡しつづけた。その作業はソ連崩壊後も続き、9年間もの長きにわたってロシア側への協力の見返りに合計460万ドルの報酬を受け取った。Gordievskyがイギリスに提供した内容にも匹敵するスケールの情報漏洩だった。

 Amesは1994年にFBIに逮捕され、法廷で終身刑を言い渡された。現在80歳、インディアナ州の刑務所で服役している。