プーチン大統領は2月21日、約1時間の演説を行った。ロシア語で国民と友人向けに語った内容の全文は、ロシア政府が英訳してクレムリンのHPに掲載したようだが、現在ではアクセス不能となっている。
ウクライナ危機が深刻化するなか、プーチン氏の説明をロシア政府がブロックするとは考えられない。アクセス不能にしているのは、彼に敵対する勢力なのだろう。
日本人ジャーナリストによる和訳作業の途中でアクセス不能となり、今のところ、インドのサイトに掲載された英訳と個人がアップした動画でのみ閲覧できる。
この演説でプーチン氏は驚くべき内容を語っている。私が最も注目したのは下記の部分だ。
"I will say something I have never said publicly, I will say it now for the first time. When then outgoing US President Bill Clinton visited Moscow in 2000, I asked him how America would feel about admitting Russia to NATO.
I will not reveal all the details of that conversation, but the reaction to my question was, let us say, quite restrained, and the Americans’ true attitude to that possibility can actually be seen from their subsequent steps with regard to our country.
I am referring to the overt support for terrorists in the North Caucasus, the disregard for our security demands and concerns, NATO’s continued expansion, withdrawal from the ABM Treaty, and so on. It raises the question: why? What is all this about, what is the purpose? All right, you do not want to see us as friends or allies, but why make us an enemy?
There can be only one answer – this is not about our political regime or anything like that. They just do not need a big and independent country like Russia around. This is the answer to all questions."
この注目すべき発言について、米国ではRealclear Politicsという独立系メディアが伝えているが、主要な新聞やテレビでは触れていない。日本の報道は完全無視である。
欧州メディアでは、AFPが手短に伝えているほか、ガーディアン紙によれば、プーチン氏はクリントン氏から「ロシアは大きすぎるからと一蹴された」という。
この部分については、ガーディアンによるプーチン演説の解釈なのか、あるいは独自取材の結果なのかはわからない。いずれにせよ事実だとすれば、それではなぜ米国という超大国がNATOに加盟しているのか。
このほかプーチン演説の要旨は以下の通り。
・ウクライナは歴史、文化、信仰からロシアの一部である。しかしながら、ソ連時代にレーニンらがロシアと東欧諸国の土地をつぎはぎする形で、人工的にウクライナという国をつくった。
・現在のウクライナは西側の傀儡政権である。ロシア語や文化を抹殺し、同化する政策が続いている。ロシア系住民は自らの土地、文化、言語を守ろうと、2014年のクーデターに反対したことで虐殺された。
・クーデターの首謀者たちは外国から直接援助を受けていた。報告によれば、米国大使館はキエフの独立広場の「抗議キャンプ」を支援するため1日100万ドルを提供した。(注:この発言は元CIA職員による以下の記述を思い出させる。"私の祖父は「陸軍のエンジニア」で海外生活が長く、いつも駐在国で予期せぬテロが起きて政府を転覆させていた。。本当の勤務先はCIAではなかったのかと、私は感じている。")
・米国はウクライナの国家汚職防止庁、国家汚職防止局、汚職防止専門検察庁、汚職防止高等裁判所を直接支配している。ロシアを含む多くの国で汚職は問題となってはいるが、ウクライナの汚職は常軌を逸している。(注:私はウクライナ人に騙されて大変なことになった日本人を知っている。限られた体験だとは思うが、このためウクライナにはあまりいい印象がない。)
・NATOは東方拡大しないという約束を反故にしたため、相互信頼が失われた。(注:この件は先日の記事でも紹介した。)
・米国の防衛計画書には先制攻撃が含まれている。敵は誰か? ロシアである。米国はミサイル防衛システムを展開し、ウクライナがNATOに加入すればロシア上空を監視できる。これは「喉元につきつけられたナイフ」である。これらの動きはロシアが表明してきた恐怖感と懸念を完全に無視するものだ。
・ウクライナ憲法17条は外国軍を自国領土に置くことを認めていない。だがNATO軍事演習がすでにウクライナで行われている。各国は自分で同盟を結ぶ権利はあるが、それによって他国への脅威を与えてはならないと、欧州安全保障憲章やアスタナ宣言は述べている。
プーチンの本音をまとめると、以下のような感じだろうか。
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ええ、そりゃレーニンがロシアの歴史や文化を無視して勝手にウクライナという人工国家をつくったのが、諸悪の根源だった。
でもね、ロシアはソ連崩壊後もウクライナを支援してきたし、東欧諸国の負債の肩代わりまでしてやった。にもかかわらず、ロシアと欧州を結ぶパイプラインからガスを盗むなど、ウクライナはいつだって寄生虫のように自立していない。
それにつけこんだ米国がウクライナを支配下に置こうと、テロやクーデターを画策。ロシア系住民を虐殺し、ウクライナを利用してロシアを監視しようとしている。米国はロシアをNATOに加盟させないばかりか、過去30年にわたり、NATOは東方拡大しない約束を反故にしてきた。
ウクライナは自らの憲法すら無視して、すでにNATO駐留軍の演習を行っている。
法律や約束を守らない輩には、法律や約束では対処できない。この期に及んでは、最後の手段、すなわち軍事力に頼るしかない。俺たちは核だって持ってる。もうこれ以上バカにするんじゃない。
米国は裏からクーデターをあやつるといった姑息な手段を使うが、オレは正々堂々と正面から行く。独立国には自らを防衛する権利があり、そこには先制攻撃が含まれる。米国の防衛計画にもそう書かれている。
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個人的な感想を言えば、最大の犠牲者は何も悪くないウクライナ市民である。本当に気の毒としか言いようがない。
そもそもソ連の指導者たちの気が狂っていた。だが真犯人がレーニンなのかはわからない。ロシア革命に資金援助を行ったのは英米金融機関だったと、在ウクライナ日本大使を務めた馬渕睦夫氏は述べている。
だがクリントンがロシアをNATOに加盟させていれば、それこそ一件落着で世界平和が訪れ、何の問題もなかった。やっぱり米国も悪い。