ロシア外務省の報道官は「緊張をつくっているのは米国だ」と反論。アングロサクソンはどんな犠牲を払ってでも戦争を必要としている。挑発、デマ、脅しは常套手段であり、米国の軍事政治はまたもや人命を奪おうとしている、と。ロシアのラブロフ外相は「我々は侵攻ではなく外交に忙殺されているが、話す相手(米国)は耳が聞こえないようだ」としている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先月末「西側諸国はパニックを作り出すな」と述べた。フランスのマクロン大統領はモスクワまで出向いてプーチン大統領と5時間も会談し、「プーチン氏は自ら緊張を高めないと言った」と記者会見で語った。
情報が錯綜しているように見えるが、実際はどうなのだろうか。
新聞・テレビ・通信社電などは字数や放映時間の制限から、どうしても手短に最近の出来事を追う報道になる。また欧米の見方が主流となり、ロシア側の言い分があまり伝わってこない。
素朴な疑問として、米国は欧州ではないのに、なぜ欧州の安全保障に口を挟んでくるのだろうか。
大量破壊兵器もないのにイラクを攻撃、アフガンにも攻め込んだかと思えば、バイデン大統領は国務長官の助言も聞かずにいきなり撤退。あとは野となれ、山となれ、という無責任さである。
米国内でもバイデン政権のやり方に疑問を呈す人も出てきた。"Foreign Affairs"誌は「冷戦時代につくられたNATOは時代遅れであり、大きすぎて挑発的すぎる」とする歴史学者の寄稿を発表した。
大西洋を隔てた米国とは違い、ドイツやフランスなど欧州各国はロシアの天然ガスや石油に依存し、歴史的なつながりも深い。
ロシアの繁栄を築いた女帝エカテリーナ二世は、ドイツ出身である。クレムリンの「武器庫」(実際には博物館)には歴代ロシア皇帝へ欧州各国から贈られた装飾品が並んでいる。これらの贈答品を製造したのは全てドイツだった。
かつてロシア貴族の公用語はフランス語で、トルストイの大著「戦争と平和」は原書でも貴族同士の会話部分はフランス語で書かれている。フランスに留学した貴族も結構いた。
こうした長い歴史、大きな利害や特別な感情のからむ欧州とロシアの関係に、部外者の米国が首を突っ込んでくることを不快に思う関係者もいるだろう。
米国とカナダ、米国とメキシコの間にも近隣ならではの様々な利害関係がある。米国で医療保険に入れない患者がカナダの病院に診察を受けに来たり、あるいはメキシコから米国へ不法移民が押し寄せている。こうした問題に欧州や日本が介入してきたら、当事者は「うぜえな、お前には関係ないだろ」と思うことだろう。
ネオコンが危機をあおる
在ウクライナ日本大使を務めた馬渕睦夫氏の解説はこうだ。ロシアの国境軍備拡張など欧米メディアが騒ぎ立てているだけで、なんの証拠もない。バイデン政権の背後にいるネオコンがフェイクニュースを流し、ロシアを挑発して危機をあおっている。
前回のウクライナ危機に関しては2015年2月、ウクライナ・露・仏・独の四カ国で停戦に合意した。米国は蚊帳の外に置かれ、これに対してネオコン投資家のジョージ・ソロスは同年4月1日にニューヨークタイムズ紙への寄稿で不満を表明した。「これでは何のために自分たちがウクライナ危機を起こしたのかわからない」とまで言っている。
つまり戦争が起きれば、米国の軍需産業は受注が増え、当事国は武器を買うため英米系金融機関に借金をして、我々はうるおうのにと言いたいのだろう。
プーチンの米国・NATOへの不信感
プーチン大統領は2007年にミュンヘンで行った演説でこう述べている。
東西冷戦が終結してソ連は平和的にロシアに移行し、ベルリンの壁は崩壊した。にもかかわらず、NATOは拡大を続けて軍事的な壁を東へとのばしつづけている。1990年にNATO事務総長Woernerは「ドイツ以外の領土にNATO軍備を置かない準備はできており、これによってソ連に安全を保障する」と述べたが、こうした保障はどうなったのか?
2021年12月17日、ロシア外務省はプーチン大統領が提案した「NATO東方不拡大を保証するための米露2国間の条約案」を公表した。同条約案は米国に対し「NATOに加盟していない旧ソ連諸国の領内に軍事基地を持たない」「これらの国々の軍事施設を使用しない」ことを求めている。
防衛大卒の元自衛隊幹部である横山恭三氏は、この提案はロシアによる米国への根強い不信感の表れだと解説している。「プーチン大統領は、日頃から米国は簡単に約束を反故にするため、同国が提案する安全保障上の保証については信用できないと主張している。そこで、今回は法的拘束力のある条約を提案したのであろう」
手のひら返しを繰り返す米国
たしかに国際関係で米国は手のひら返しを繰り返している。米国大統領が信頼できる例として、ブリンケン国務長官はケネディ時代の1962年にまでさかのぼった。米中国交正常化の交渉では、カーター政権にちゃぶ台返しをされて鄧小平が激怒した。
敵対する2つの政党が政権交代を繰り返し、米国は過去の政権が約束したことは関係ないという態度すら取る。例えば京都議定書、パリ協定、TPPなど。
TPPに知財など凍結項目がある理由は、もともと米国が提案した内容だからであり、他国には関係がないため、米国が戻れば「凍結項目だけレンジでチンすればいい」(甘利氏)という仕立てになっている。
アメリカが国内政治で世界中を振り回すことに、いい加減にしてくれと思う向きも多いだろう。ロシアや中国のような長期安定政権のほうが一貫性があり、信頼できるという見方もできる。
ロシア国営放送RTは、プーチン大統領によるミュンヘン演説が今日でも意義があると強調し、概要版をYouTubeに昨日アップした。
プーチン氏の発言にうなずく人もいるのではないか。
"The United States has overstepped its national borders in every way. This is visible in the economic, political, cultural and educational policies it imposes on other nations. Well, who likes this? Who is happy about this?"
自国を守る決意
まあ、このような現象は時代や場所を超えて起きる。バブル時代の1990年には三菱地所がロックフェラーセンターを買収して「ジャパンマネーが米国の魂を買った」と批判された。現在では中国による土地購入、孔子学院を通じたスパイ活動などが警戒されている。
個人的にはロシアや中国のような民主主義や言論の自由が制限された社会で暮らしたいとは思わないが、世界全体が米国のように見える状況も望ましくない。ディズニーランドだけでなく西武園も存在しつづけてほしい。米国のまねをして法科大学院制度を採り入れたのがよかったのか、関係者の間でも意見が分かれるようだ。
ロシアを観光で訪れた際には、欧米風の街角もある一方で、伝統的なロシアの宮殿、美術館、天然石、宝物、ユニークな建物、音楽などに魅了された。こうした文化・伝統を守るためにも、米国が自国の領域に踏み込んでくることにロシアは危機感を覚え、どうにか阻止したいのだろう。
米国にしてみれば、2016年大統領選でロシアに介入されてトランプ大統領が当選、大混乱に陥った。どうにかしてロシアを弱体化させようとウクライナ危機をあおっている、ということでもあるのか。