2022年2月20日日曜日

元CIA職員が明かす内部事情(1)

  KGBとMI6については、先日読んだで理解が深まった。CIAも同書に登場するものの、ストーリー展開で必要最小限の記述にとどまる。

 CIAの内部はどうなっているのか。

 じつは元CIA職員の回顧録が積読になっていた。米政府勤務をきっかけに関心を持ち、買って途中まで読んではいた。だが帰宅後もワシントンを舞台にしたドラマや本に触れるのは、当時はお腹一杯になっていた。

 久しぶりに本棚から取り出して読みはじめた。先ほどのの著者はThe Timesのベテラン記者で卓越した文章力に引き込まれたが、このCIA本はそれほどのインパクトはなく、著者のCIA勤務年数は5年にとどまる。それでも元CIA職員が語る内部事情として「へえ、そうなんだ」という事実は出てくる。

 とりあえず58ページを読んだ感想をまとめてみたい。

 著者のLindsay Moranはハーバード大卒の女性。父親は国防総省の職員。祖父は「陸軍のエンジニア」で海外生活が長く、いつも駐在国で予期せぬテロが起きて政府を転覆させていた。二人とも本当の勤務先はCIAだったのではないか、と感じている。著者は子供の頃からスパイ小説を読むのが好きで、将来はジェームズ・ボンドのようになりたかった。

 新卒でCIAの採用説明会に参加したが、担当者が魅力的に思えず断念。英語教師としてブルガリアで1年を過ごしたあと、まだCIAへの関心はなくならず再びアプローチする。今度は採用担当者がカッコいい男性でやる気になり、応募書類を提出して見事内定を得る。

 CIAは4つの部門に分かれている。1)科学技術 2)管理部門 3)分析 4)諜報活動。いわゆるスパイは4)に所属するcase officerである。

 だがcase officerが自ら盗聴器や隠しカメラを設置したり、標的の施設に潜入して極秘文書を盗んでくるわけではない。機密文書にアクセスできる人物に近づいてリクルートし、彼らから情報を入手する。

 こうした実際の「CIA工作員」となるのは外国人であり、CIAはなんらかの弱みを持つ人物をターゲットに選ぶ。酒好き、結婚生活や仕事に行き詰まっている、難病の子供がいる、多額の教育費がかかる、など。こうした人々に高級な酒や食事をふるまい、子供の医療費を払い、アメリカの大学に子供を留学させて高い学費を肩代わりし、こうした報酬と引き換えに機密情報を得る。

 CIAでは工作員の質よりも数を重視する。特に難しいターゲットであるロシア、北朝鮮、中国では、とりわけ人数のほうが質よりもはるかに重要である。(このあたりが、工作員の持ってくる極秘情報のレベルや工作員との長期的な人間関係を重んじるMI6との違い、という感じがする。)

 著者は新入職員の頃にCIA本部でカザフスタンを担当した。最初の仕事はカザフ工作員と同伴する妻たち御一行様への訪米サポートだった。ホテルとレストランの予約、貸し切りバスの手配、娯楽施設(DC周辺のおっぱいパブ)の詳細な調査、売春の斡旋、男性工作員が夜遊びをしている間に妻たちが行う観光プランの立案、お土産としてCIAロゴつきのグラスとボールペンを売店で購入、といった内容である。

 このような泥臭い仕事もあるためか、同僚case officerのほとんどは男性だった。採用候補として若手共和党員が好まれる(ウォーターゲート事件に元CIA職員が深く関わっていたのも、このためだろうか。)新入職員の研修では「ひとりの娼婦と2回以上会わない限り、買春を報告しなくていい」と説明される。同じ売春宿に何度も通っても、その度に違う娼婦であればOK、ということだ。

 case officerには元軍人が多く、元警察官もいるが、学者やアイビーリーグ出身の高学歴者はめずらしい。このため、がり勉タイプの多い国務省と自らを比較し、CIA職員のほうがパーティーで目立つ存在だとか、CIAでは全天候型SUVを支給されるし、どこへ行くにもビジネスクラスで、この点でも国務省とは違うと言ったりする。(国務省などの官庁では14時間以下のフライトはエコノミーという規則がある。)

 現在のバーンズCIA長官は、国務省出身者として初めてCIA長官に就任した。こうした官庁間のライバル意識を緩和したいという政権の狙いもあるのだろうか。

 先日紹介したにも登場したAldrich AmesやJim NicholsonがKGBにCIA内部情報をもらしたことで、CIAは組織全体で大きなダメージを受けた。この反省に立ち、現在のCIAでは入手した情報を細分化し、各職員には必要最低限の内容しか知らされない。だが実際には、廊下での立ち話やコンピューターシステムのエラーによって、本来知るべき内容をかなり超えた情報が伝わっている。