007シリーズ3作目「ゴールドフィンガー」があまりに退屈で途中で断念したという話をイギリス人の友人にしたところ、「マンネリ化を打破、人気を復活させたのがダニエル・クレイグだ」と言う。
なるほど、そうなのか。ではクレイグのボンドを最初から見てみると、友人の言う通り「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年作品)は見応えがあった。
MI6の内部腐敗からストーリーは始まり、どうしようもない中間管理職をボンドは殺す。「ゴールドフィンガー」ではボンドが上部の命令に盲従、メキシコ革命家の資金源となる工場爆破で始まるという思考停止ぶりとは対照的である。
ダニエル・クレイグは当時37歳。肉体は鍛え上げているが、顔は同僚や友人にもいそうな白人男性であり、クレイグによく似たドイツ人男性を知っている。だが卓越した演技力によって、魅力的な雰囲気が出ている。
一方でショーン・コネリーのボンドはセクハラ男にしか見えない。若い頃の彼はトップクラスのハンサムであり、自分でもそれを重々承知で、だから女は誰でも自分に魅力を感じるものだと思い込んでいるように見える。女性に手を出す拙速さから傲慢さがにじみ出て、相手の同意を得るプロセスを経ていないことが明らかにスクリーンに映し出される。
これとは対照的に、クレイグのボンドはまなざしや繊細な動きから、秒単位の速度ながらていねいに相手女性の同意を得ている。この洗練された所作こそがレディファーストの真髄であり、セクシーな男とは何かを物語る。
権力と金をめぐる複雑な闘争の中で、いつの間にか自分を失うボンド。「この仕事をやり過ぎると、魂が腐っていく」("You do what I do for too long and there won't be any soul left to salvage.")という言葉には共感を覚える。
最後の終わり方は連ドラの「つづく」を思わせる。クレイグのボンドシリーズは5作品で1つの物語だと言われ、その通りのようだ。次回が楽しみになってきた。
