名古屋には27年前に半日出張に行っただけで、街をぶらつく時間もなかった。あとは新幹線の停車駅として車窓から見たことがある程度だった。
友人・知人には名古屋出身者が数人いて、東京・大阪に次ぐ大都市圏であり興味はあった。今回、坂東玉三郎公演の追っかけで初めてプライベートで訪れ、ついに名古屋を見学する機会に恵まれた。
新横浜から新幹線のぞみ号でわずか1駅、乗車時間は1時間20分。東海道新幹線は山手線なみに本数があり、のぞみは10分毎に出ている。リニアモーターカー駅の建設も進み、予定通り2027年に開通すると品川・名古屋間40分と大幅に短縮される。
高速鉄道ではすぐに着くが、やはり距離は離れている。都内を出る時には肌寒かったが、名古屋のホームに降りると暖かい。翌日には最高気温28度と暑さがこたえ、名古屋城の庭園散策は断念した。
日本3位の大都市圏だけあって市街は思ったより大きく、地方都市とはスケールが違う。世界企業トヨタと傘下企業もあり産業は発展。劇場、美術館、動物園、スポーツチームなど一通りの娯楽もあり、地元を拠点に活動しつづける人も多い。高須クリニックの二代目高須幹弥医師の出身大学や勤務地はずっと地元で、最近ではYouTubeで名古屋メシの手羽先を紹介している。
全てが名古屋で完結するが、それでも地元を出て行く人はかなり好奇心や向上心が強いのだろう。例えば、玉三郎公演の行われた御園座は設備が整ってはいるが、歌舞伎座の風格とは違う。立地でも栄(名古屋の繁華街)と東京・銀座は別物である。
その一方で御園座ならではのメリットもある。独自の演出や演目があり、美しい金の屏風を前に出演者が述べた口上(舞台挨拶)には名古屋に関する好意的なコメントやエピソードが多く含まれていた。これが歌舞伎座では襲名披露など特別な場合を除き口上自体がなく、残念なところだ。
手羽先、きしめん、名古屋風のウナギ(蒸すのではなく外側をパリパリに焼く)など名古屋グルメもある。ここで「東京グルメ」という存在がないことに気づく。「東京ばな奈」は地方から東京観光に訪れた人が買うもので、都民のグルメではない。
寿司、カレー、ピザなどジャンルを問わず、東京には一流のシェフが集まって腕を競い合う。ここに東京グルメという概念はなく、おいしさを純粋に追求している。有名店の寿司職人は全国の魚市場を訪れて知識を深め、そのうえで最高の味を出す努力をしている。
この構図はその他の分野にも当てはまり、東京には最高のものが集まる。ただし、これは一般的な傾向であり、首都の権力構造や既成概念から距離を置くことで生み出される価値もある。