2021年8月19日木曜日

仕事の検証(4) 美容師

 私の祖父は理髪師として戦前の横浜でサロンを開き、洋風の内装とシャンデリアの素敵な店を経営していた。当時の規制より厳しい衛生基準で毎回ハサミを消毒し、頭皮の病気のため他店で断られたお客さんも受け入れ、よい評判が広がり商売はとても繁盛した。戦争に突入する前の輝いていた時代の話として、母がよく語っていた。

 こうしたDNAの影響なのか、私は髪に特別のこだわりがある。ニューヨークに留学していたとき、当時トランプタワーにあったヴィダル・サスーンの直営店に行き、カットがとても気に入った。ロンドン本店で世界のトレンドを作るディレクターや、サスーン氏の直弟子である川島文夫氏ら最先端のカットも体験した。

 その一方でQBハウスや近所の美容室にも行き、見習い美容師の練習台(カットモデル)になったこともある。

 結論として、有名店は独自の厳しい基準を設けているため、それをクリアした美容師であれば腕は確かであり、おかしなことにはならない。あとは個人差や相性の問題で、QBでも驚くほど上手な理髪師もいる。これならQBで十分じゃないかとも思うが、QBは指名不可のため賭けにはなってしまう。

 美容院に行く楽しみの一つとして、美容師さんはこの仕事が好きでやっていることが感じられる。画家、ジャーナリスト、デザイナーといった芸術的な仕事に共通する特徴で、こうした仕事を嫌々やっている人は見たことがない。

 客によって髪質や好みが異なり、季節によって湿度など髪に影響を与える条件も変わる。これら全てを頭に入れてデザインを考え、客を満足させる作業は面白くてやりがいがあるだろう。川島氏の経営するサロンで働く美容師さんいわく、正月休みよりも働くほうがずっと楽しいので休みはなくてもいいくらい、だそうだ。

 その一方で、やはり客商売なので難しいこともあるようだ。近所の美容師さんによれば、最近では美容師と話したがらない客が増えたという。美容関係の予約サイト・ホットペッパービューティーの備考欄で「話しかけないでください」と書かれることもある。それでも彼女は話し好きなので、つい話してしまうと険悪な雰囲気になる。

 彼女はカットが上手だし、話も面白いので気の毒だと思ってしまう。私は個人的に、自分とは違う生活をしている方の感覚を知るのは興味深く、利害関係なしで自由に話せるのは楽しいのだが。

 ただ、ここまでコロナ感染が広がってくると、一段落するまでは美容院に行くのも控えておこうか、となってしまう。