2021年7月25日日曜日

真夏のバトル Gとの戦いに挑む

 一昨日の晩。ついにと言うべきか、昨年12月以来初めて「G」が出た。台所の白い壁紙の角の部分を、真っ黒で4センチほどの物体が駆け上がる。一瞬止まったので、そっとハエたたきを手に取り「バシッ」と一撃を加える。

 その物体は床に落ちたが、まだ動いている。さらに一撃を加え、物体が平らになるまで二度、三度と念を押す。もちろん床に色はつくが、あとで消毒シートで拭けばいい。

 自分でも残酷だと思うが、生きるとは縄張り争いでもある。一人暮らしでは、こうしたことも含めて全て自分一人でやらねばならない。

 今後の対策をどうするか。マンションの高層階と比較して、一戸建てはGの侵入を防ぐのが難しい。枯葉の下にも生息しているため、どうしても庭から入ってきてしまう。できるだけ侵入経路をふさぐとともに、不法侵入したヤツに家を乗っ取られないようにすることが重要である。

 Gを1匹見つけたら30匹はいるとの説もある。考えただけでゾッとするが、とにかく家に潜んでいるGを根こそぎやっつけることにしよう。

 アマゾンで購入した「アースレッド プロα」を試す時が来た。バルサンと同様の製品で、室内を殺虫剤の煙で満たして部屋中に潜んでいる虫を一網打尽に殺す、というものだ。

 殺虫剤に関しては、高校の課題図書だったレイチェル・カーソン著「沈黙の春」の印象があまりにも強い。だが半世紀以上経ち、メーカーの説明によれば「虫には効くが、人体には安全」な技術を開発しているという。

 殺虫剤の人体への影響と、夜中に突然ヤツが現れる恐怖、どんなに掃除をしていようが、Gが出たとたんに自らを全否定されるような感覚を天秤にかける。結論として、心穏やかに暮らすために最終兵器を使うことにした。なにしろアースレッドのシリーズの中でも、プロαは最も効きめが強いタイプだという。

 メーカーの説明書によれば、噴霧中にGが別の部屋に逃げないよう、全室を同時にやるのが効果的らしい。ただ心配なのは、電子機器への影響である。噴霧する前にPCなどの精密機器にはカバーをかけ、「大型コンピューターの設置されている部屋では使用しないでください」とビックリマークつきの赤字で注意喚起をしている。

 ということは、高性能なオーディオ機器にもあてはまるだろう。Gを一時的に撃退しても、一組で60万円もしたハイエンドスピーカーが壊れてしまっては元も子もない。台所の隣でオーディオ機器の置いてある部屋は、パスすることにしよう。

 台所から食べ物、PC、ラジカセを隣室に移動し、残りの機器はビニール袋でカバーする。引き出しの奥にヤツが隠れている可能性もあるので、食器棚の戸や引き出しは開いたままにしておく。

 いよいよ製品のパッケージを開け、説明書の指示通りにセットする。セットして1分後に蒸散開始し、その前に別の部屋に避難する。台所は閉め切ったままにしておき、2時間以上経過したら口をタオルで覆いながら台所に戻り、サッシを開けて換気を十分に行う、という手順である。

 まるで時限爆弾を仕掛けて逃げるテロのようだ。いやテロを撲滅する軍隊と言ったほうが正しい。総司令官と最前線兵士の一人二役。緊張を要する作業だが、全てマニュアル通りに任務を遂行する。

 正しく製品を設置し、ただちに隣室に逃げてドアを閉め切る。スマホでもいじって待機していれば、2時間なんてあっという間かもしれない。

 しかしながら、ほどなく喉がイガイガしてせき込んできた。マニュアルには「薬剤を吸い込まないように注意してください。万一吸い込んだ場合、咳き込み、のど痛、頭痛、気分不快感を生じることがあります」とある。

 ドアのわずかな隙間から漏れ出した、ごく少量の薬剤でも人体にこれほどの「効果」があるのか。これならGにもかなり効くだろう。

 二階への避難を決断し、タオルで口を押さえつつ階段を上がる。思ったほど蒸し暑くなく、東側の窓からいい風が入ってくる。かなり換気状態はよく、ほどなく喉の痛みは治まる。スマホでYouTubeの書評チャンネルをかけつつ、うとうととソファベッドで寝てしまう。気がつくと、すでに2時間15分が経過していた。

 いよいよ、全ての生物が死に絶えたグラウンドゼロに降り立つ瞬間である。

 静かに階段を下りて、タオルでしっかりと鼻と口を覆いつつドアを開ける。

 ありゃ。。。何もいない。説明書やレビューによれば、虫の死骸がかなり床に落ちているそうだが、ほぼ変化なし。Gなのか何なのかわからないほど小さな虫が一匹落ちているだけだ。

 製品の缶の上面は焼けたようになっていて、任務終了のサインと見ていい。自分への健康影響も考えれば、作動しなかったとは考えにくい。

 いなかったのであれば、それでいい。小さなダニが落ちている可能性はあるので、マニュアル通りに掃除機をかける。そして台所の隣にある洗面所へのドアを開けると、はっきりとGとわかる3センチ程度の死体が落ちていた。もともと洗面所にいたのか、台所から逃げ出したのかわからないが、少なくとも1匹は仕留めた証拠である。続いて廊下へのドアを開けると、種類の不明な虫が一匹落ちていた。

 結論として、少なくとも1匹のGがいて、そいつを仕留めた。奥に潜んでいて噴霧を浴び、そのまま死んだ虫がいる可能性もある。

 まずは作戦成功と言えるだろう。しかしながら、殺傷能力の高い薬剤でもGの卵には効かないため、卵が孵化した2~3週後に再度アースレッドを焚くと効果的らしい。

 3週間後というと8月15日。終戦の日にまた殺戮を行うのは心苦しく、手帳には8月14日に「アースレッド」と記入した。