2022年3月3日木曜日

書評「プーチンとG8の終焉」

  著者の佐藤親賢(さとう・ちかまさ)氏は共同通信の元モスクワ支局長。

 2016年初版の岩波新書である本書の内容は、著者の個人的な見解であり、所属団体・組織とは関係ないと前置きしている。西側メディアに付和雷同しがちな日本の報道機関に勤める記者が書いたものだが、このため本書には独自の視点が含まれている。

 地元の図書館で借りて読み進めると、興味深い個所がいくつかあった。アンダーラインや書き込みをできずに歯がゆく、アマゾンで買おうとしたところ、すでに絶版のようだ。中古本はつい最近まで300円程度だったのが、現在の値段は1,449円と高騰している。

 面白い部分はあるものの、報道記事と事実の羅列で構成され、全体の流れがいまひとつでやや読みづらい。

 ロシア専門家の学者である木村汎(きむら・ひろし)氏の書いた「プーチン 人間的考察」は厚さ5~6センチもある大著だが、こちらのほうがはるかに読みやすい。おそらく木村氏のほうが、自分が書いている内容をよく理解しているのだろう。

 木村氏の著書を置いている図書館で2~3時間かけてざっと読んでみたところ、メチャクチャ面白かった。手元に置いてアンダーラインや書き込みをして完全に内容を把握しながら読みたいと思い、アマゾンで中古本を買った。こちらは絶版になっていないようで、新品の定価は6,050円、私が買った中古本(と言っても新品同様の美品)は3,279円だった。それが今では中古本の最低価格も4,507円に値上がりしている。

 ロシア情勢が緊迫して世間の関心が高まるなか、面白い関連本を見つけたら、即座に買ったほうがいいだろう。

 前置きが長くなったが、佐藤氏の著書を図書館に返す前に、興味深かった箇所をメモにまとめておきたい(本書の要約+これまで得た関連情報と私の解釈を含む。)

・英米金融機関の資金援助を受けたロシア革命によって成立したソ連は、ネオコンの産物である。レーニンらソ連指導者はロシア帝国の歴史や伝統を無視して、領土をバラバラに分割した。

・人工国家の集合体ではあれど、ソ連時代は全体としてまとまっていたため問題にはならなかった。ソ連崩壊とともに人工国家群がそのまま独立したことで、ロシア系住民の土地や歴史を無視した国境線が引かれることとなった。

・プーチンはこうした分断国家をまとめてロシア本来の土地を取り戻し、ロシア民族と伝統を守ることが、自分に与えられた歴史的使命だと考えている。クリミア編入はその一環である。(注:この論法でいけば「日本固有の土地を取り戻し、日本民族と伝統を守るために、北方領土を返せ」ということになるが。。)

・反グローバリズムのプーチンはインターネット嫌いで知られる。自らのメッセージを伝える手段としてテレビを活用する。

・彼にとってロシア・ウクライナ・ベラルーシは不可分のロシア系民族で成り立ち、アングロサクソン(英米)がウクライナを乗っ取るなど断じて許さない。このためウクライナ軍に武器を捨ててロシアにつくよう語りかけた。それでもウクライナ軍がネオコン傀儡のゼレンスキー支配下にあるならば、心を鬼にして軍事行動によってキエフ政府を崩壊させる。NATOが約束に反して東方拡大をするなか、それしかロシア民族を守る道はない。

【関連情報:在ウクライナ日本大使を務めた馬渕睦夫氏らのコメント

・ロシアのウクライナ侵攻には11月の米国中間選挙が関係している。ネオコン支配のバイデン政権を不利に持っていきたいプーチンとしては、有事の際には現職が強いため、選挙までに十分に終わるタイミングで侵攻を開始したのだろう。

・ラーム・エマニュエル駐日米大使は元シカゴ市長だが、シカゴ財界は親中のネオコンとして知られる。同氏はオバマ政権の大統領首席補佐官で国務長官より格上とも言える大物政治家。これに対して、在中国米大使に承認されたニコラス・バーンズ氏は元官僚であり、はるかにエマニュエル氏のほうが重要な人事だとわかる。

・つまり、日本がロシアと仲良くしないようにするのが、彼に課せられた任務だ。エマニュエル氏が北方領土の日(2月7日)に動画で「米国は北方領土問題で日本を支持している」と述べたのも、この一環である。バイデン政権は岸田政権の外交姿勢が反ロシアになるよう相当な圧力をかけているだろう。】

・クリミア編入の翌年、2015年にロシアはG8から追放された。だがG8にいる間にも、ロシア以外の国々はみな米国追従で、全会一致のため譲歩を迫られ不満を感じていた。ロシアはほかの7カ国とは別の視点を提供することに意味があると思っていたが、それを彼らは不要と考えた。G7は米国主導の仲良しクラブに過ぎない。

・そもそもG7は時代遅れである。中国や東南アジア、インド、アフリカが著しく経済成長するなか、G20のほうがはるかに意味がある。お決まりの経済制裁には、中国らと組むことで対応できる。

・プーチンはロシア正教徒で「右の頬を打たれたら左を差し出す」キリストを信じていない。やられたら、やり返す。これに通じる思想家がイワン・イリインでプーチンと側近がしばしば引用する。イリインはロシア革命を批判し、トルストイの無抵抗主義を有害な思想と断じた。

・2014年2月のソチ五輪と同時進行的に、ウクライナでは米国大使館の資金援助によるクーデターが発生。親露ヤヌコビッチ政権への平和的な反政府デモを治安部隊が銃撃したと、欧米では一般的に信じられているが、そうではない。デモ隊も銃撃し、双方の激しい交戦に発展した。(イギリスの報道機関は米国以上にプーチン嫌いで、反プーチンのフェイクニュースが散見される。)

・激変する世界において長期的戦略など意味がない。その時々で最適な対処をすることが重要だとプーチンは考えている。

・プーチンは独裁者と言われるが、そうではない。国民との対話を重視して要求を敏感に感じ取り、それによって行動を取る。彼は大衆の中にいるとき、普段よりも生き生きとしているように見える。クリミア編入にはロシア国民が賛成し、支持率は82.3%に達した。いくつかの世論調査を総合すると、ウクライナ侵攻も国民の70%程度は支持している

・プーチンは出身地のサンクトペテルブルクで、少年時代からナトリー・ラフリン氏に柔道を習った。同氏は不良だったプーチンに武道の礼節を教え導いて生涯の師となり、2013年に死去。プーチンは葬儀に参列後、大統領専用車に乗らずサンクトペテルブルクの街を歩きだした。

・2013年にプーチンは離婚。2015年には愛人と噂される新体操選手のアリーナ・カバエワが、ロシア富裕層に人気のスイスにある産院で出産した。プーチンが付き添っていたとスイス大衆紙は伝えている。