2022年3月21日月曜日

書評「プーチン 人間的考察」

  ついに622ページの大著を読了。図書館でざっと読んでメモを取ったあとに本書を購入、アンダーラインや書き込みをしつつ全編を熟読した。

  これによってプーチンに関するいくつかの疑問が解けた。多くの方も同じ疑問を持っていると思うので、得られた答えと感想を述べていきたい。

1)プーチン大統領がこれほど長く在任している理由

 プーチン大統領の在任年数は、2008~2012年の首相時代を含めると22年にも及ぶ。過去にもソ連のスターリン書記長は30年在任し、ロシア国民が強い指導者と社会の安定を求める事情とメンタリティがあると、著者は言う。

 世界最大の国土と恵まれた資源(天然ガスの埋蔵量で世界1位、石油、ダイヤモンド、鉄鉱石などもトップクラス)を守り、多様な民族をまとめていくには、カリスマ性のある強いリーダーが必要だ。

 日本のように四方を海という緩衝地帯に囲まれ、天然資源に乏しいため働かざるを得ず、太古の昔から続く世襲制の天皇を頂点として、同質的で自然とまとまる農耕社会とは訳が違う。

 戦争が起きる理由はいつも同じ=資源や領土が欲しい。そうして国民を食わせていける。野生のライオンと一緒。米国という国は原住民から土地を奪って成立した。世界制覇もその延長線上にあるのだろう。

 こうした外的と戦うシンボルとして、マッチョな指導者が存在する。

 プーチン大統領は国民投票をへて昨年4月に憲法修正を行い、あと2回再選に立候補できることになったため、最長で2036年まで在任可能。その頃には84歳(公式発表とは異なる生い立ち説によれば86歳)となる。

 ソ連時代のスターリン書記長の在任30年を上回り、36年の長きに亘ってロシア連邦のトップの座に君臨しつづける。前述したロシア事情に加えて、プーチン氏はとりわけ権力欲が強いとする見方が多いが、著者の見解は異なる。

 プーチンは他人を信用しない性格のため、側近は自分がよく知っている人物で固めている。同郷のサンクトペテルブルク出身者、柔道仲間、KGB時代の同僚である。プーチンは資源・エネルギー関連企業を国有化し、経営者はこうした知り合いが占める。

 この狭い世界では賄賂が日常化し、プーチン氏は欧州一の金持ちと言われる。自分が最高権力者のうちは汚職の罪にも問われないが、大統領を辞任した場合には、後任者による責任追及がはじまるだろう。そうすると財産は没収され、国外に追放されるかもしれない。

 プーチン自身、大統領就任後に財界人ベレゾフスキーを追い出した。彼の所有するメディアがプーチンに批判的な報道を行ったからだ。ベレゾフスキーは無名だったプーチンを担ぎ出し、エリツィンに紹介した人物である。KGB出身の官僚であれば、ベレゾフスキーを含むエリツィン一味の言うことを聞き、守ってくれるだろう、という思惑だった。

 だがいったん大統領として最高権力を握れば、自分のやりたいように物事を進められる。邪魔者には去ってもらう。前任者の息のかかった人物は面倒だ。こうした「上級管理職あるある」はどこでも起きる。

 つまり、プーチン大統領が後継者に席を譲ってしまえば、自分がエリツィン一味に対して行ったようなことが起きてもおかしくない。韓国の歴代大統領の行く末にも通じるものがあるかもしれない。

 さらには大統領でなくなれば今よりも警護が手薄になるだろう。内外ともに敵の多いプーチンにとって、自分や家族の身の安全を守るためにも大統領でいつづける必要がある、と著者は分析する。

 これに加えて、プーチン大統領が演説やインタビューで述べているように、ロシアの安全保障とロシア系民族の統合を自らの歴史的使命と信じているのだろう。

2)健康の秘訣

 古希を迎えるとは思えないほどプーチンは若々しく見える。戦争という最高のストレス状態にありながら、いつもと変わらないエネルギッシュな様子は驚異的である。

 
 彼はモスクワ郊外の公邸にいることが多い。 完全な夜型で午前2時過ぎまで働くが、朝は自然と目が覚めるまで眠り、目覚ましで起きることはない
 
 太字で下線を引いたとおり、これはメチャクチャ重要な点である。私自身の経験から言っても、健康にとって最も重要だと断言できる。つまり寝不足にならない、ということだ。

 これとは逆に不眠症ほど危険なものはない。私は前職でストレスのために眠れず、おかげで疲労困憊になり気力・体力がかなり落ちた。それが今では眠りたいだけ眠り、当時とは比較にならないほど元気になった。

 睡眠についで重要なのは運動である。プーチン氏は正午過ぎに起床、朝食後に公邸内のプールで泳ぐ。2時間泳ぐと書かれた記事もあるが、本書では「1,000メートルは泳ぐ」とする本人のコメントを引用している。
 
 私も定期的に泳いでいるが、自分のゆっくりなペースで30分に1,000メートルなので、マッチョな男性であれば1,000メートルは15~20分ほどだろうか。2時間とする記事はおそらく、マックスでそのくらい泳ぐこともある、ということなのだろう。

 いずれにせよ水泳は全身運動で関節への負担もなく、とくに中高年には理想的な運動である。長く生きていると、どうしても一定の箇所の筋肉をより使い、その一方であまり使わない筋肉が出てくる。テニス肘や五十肩はこうした筋肉使用の不均衡が原因となるが、水泳はまんべんなく全ての筋肉を使い、またジョギングやテニスのように膝や肘への負担もない。さらには水の中という日常を離れた環境でリフレッシュできる。
 
3)プーチンの権力基盤
 
 彼の主な支持層は軍人、警官、公務員、学生、年金生活者。ソビエト期の教育が尾を引いている中高年層。民主主義的な諸権利よりも、安定、秩序、規律を重視する人々。

 プーチンは2008~2012年にメドベージェフを大統領に据えて、自分は首相として傀儡政治を行った。メドベージェフ氏を選んだ大きな理由として、彼が162センチと自分(168センチ)よりもさらに低身長だった。これは冗談として言われるが、ロシアには「冗談にも一抹の真実がある」という諺がある。

 いやはや、メチャクチャおもしろい本だった。思わず感想を書いて著者に送ろうかと思ったが、木村氏はこのプーチン三部作を仕上げた翌年に他界している。
 
 次のロシア大統領選は2024年3月17日に行われる。同年11月5日には米国大統領選もあり、この混沌とした状況と選挙がどうなっていくのか、目が離せない。