最近、秋田犬にはまっている。
と言ってもYouTubeやツイッターで紹介される動画や写真しか見ていない。つぶらなしょうゆ顔、すらっと伸びた脚、ふさふさした毛並。そして何といっても、ハチ公に象徴される飼い主への深い愛情を知ると、どうしても実際の秋田犬と会ってみたい。
柴犬もかわいい。近所で散歩している人をよく見かけるし、豆柴であれば犬カフェで交流することもできる。
だが秋田犬となると、東京周辺では飼っている人は滅多にいない。秋田犬を散歩している人は見たことがない。もともと猟犬で成犬では体重40キロにもなり、小柄で痩せた女性と同じくらい大きい。
秋田犬保存会という組織があり、例年では美しい秋田犬の基準に合致した犬の品評会を全国の各支部で行っている。だが関東を含むイベントがコロナで軒並み中止になっている。
もっと珍しい動物、例えばライオンやキリンであれば、動物園に行けば見られる。だが秋田犬は動物園で飼うほどの珍しさはない。
半日がかりの長旅で秋田犬に会いに。。?
どこに行けば秋田犬に会えるのか。
どうやら発祥の地・秋田県大館市では、ほぼ確実に見られるようだ。秋田犬保存会の本部のある秋田犬会館では、事務所スタッフの飼っている3匹が月水金に「出勤」している。コロナ対応でさわるのは禁止だが、事務所にいる様子を1~2メートルの至近距離で見られるという。毎日ツイッターでこの様子を発信。運がよければメチャクチャ愛くるしい子犬が登場することもあるようだ。
秋田犬保存会では東日本大震災へのロシア政府による援助に感謝するため、犬好きのプーチン大統領にメスの秋田犬をプレゼントした。「夢」と名づけられ、アエロフロート航空が用意したビジネスクラスの席でモスクワに渡航。大切に育てられ、日本政府や東北関係者が訪露した際には元気な様子を見せてくれたという。この返礼として、ロシア側からはシベリア猫が秋田県知事に贈呈された。
地方出身の友人を深く理解する
話はややそれるが、東京で出会ってきた友達の多くは地方出身である。こうした地方を訪ねてみると、百聞は一見に如かずで、彼らの背景や考え方を実感として理解できる。国内旅行の楽しみの一つは、そうした感覚を得られることだ。
だが残念なことに、東北には福島と宮城しか行ったことがない。それ以外の東北地方にも一度足を運んでみたいが、現在は東北+新潟の県知事が合同で「県境をまたぐ移動は厳に控えてください」というメッセージを発している。
秋田県には「県民以外お断り」の施設も結構ある。例えば、観光名所の武家屋敷の内部を見学できるのは秋田県民だけで、それ以外の地方から来た観光客は外側から見るだけになる。ネット情報によれば、ホテルによっては館内の食事処にも「県民以外お断り」のビラが貼られているという。
このため秋田犬保存会に電話をして、秋田県民以外でも入れるのか問い合わせたところ、特に制限は設けていないという。
大館駅前には行政による秋田犬PR施設「秋田犬の里」もあり、こちらでは月曜を除く毎日ガラス越しに1匹の秋田犬を見られるほか、ぬいぐるみやストラップなどの秋田犬グッズも販売している。渋谷駅前にあった緑色の古い車両も展示されている。
ただ大館市に本当に行くとなると、メチャクチャ遠い。新幹線で盛岡まで行き、さらに高速バスで2時間半、あるいはローカル線で3時間近く。移動時間を多少短くするには、新幹線で新青森まで行き、そこから地元の特急という手もある。
東京ー京都間は2時間15分、東海道新幹線は通勤電車なみに頻繁に出ている。つまり盛岡まで行って、さらに東京・京都間を超える移動が必要になる。
「ハチ公のお出迎え」は魅力的だが。。
飛行機で大館能代空港まで行けば、8のつく日の羽田発午前便の到着時刻(午前10時頃)に合わせて、2匹の秋田犬が到着ロビーを出たところで「お出迎え」してくれる。このハチ公チックな演出には心惹かれる。秋田犬は猟犬のため飼い主にしか懐かない性質があるが、このイベントに来てくれる犬は人慣れしているため、旅行者がなでても嫌がらないという。
ただ空港から大館市内までバスで1時間ほどかかる。さらには自宅から羽田まで2時間程度かかるので、結局のところ大宮経由で新幹線で行くルートが最短ということにはなる。
ここまで遠距離の旅行をして、秋田犬にさわることもなく実際に見て写真を撮るだけ、というのはもったいない。もっとメジャーな観光地、例えば十和田湖を含めるのはどうだろう。
「樹海ライン」という怖い響き
そこで十和田湖周辺について調べてみると、みちのくの名にふさわしく、鉄道や高速バスすら通っていない。路線バス+ホテルの送迎という手もなくはないが、本数が少なく、待ち時間が半端ないだろう。
結論として、レンタカーを借りて「樹海ライン」という道を運転することになる。携帯は通じるのか。ヘアピンロードを運転しつつ、自分で車酔いにならないか。あるいはクマに遭遇してもおかしくない。何かあったときに「東京から不要不急で訪れた観光客」と批判されるのは間違いない。
こうなってくると、かなりの覚悟が必要だろう。緊急事態宣言は来月には解除になると思われ、紅葉が深まってから行くほうがいい、というのが常識的な見方である。ただ、そう思う人も相当いるだろうから、観光シーズンに混み合って密になることも大いに予想される。
9月中にサクッと行ってしまい、さわやかな初秋の風を感じるのも心地いいだろう。
割高な地方のマイナー都市
迷いながらも、ホテルなど具体的な検討も進める。そこでわかったのだが、マイナーな地方都市のホテル代は意外と高い。こぎれいなホテルでは素泊まりでも1万2500円、ビジネスホテルとして普通の値段(5000円~1万円)ではトイレバス共有だったりする。
都心やメジャーな観光地であれば、6000~7000円も出せば、新築やリノベしたばかりのこぎれいなホテルに泊まれる。
この差は何なのだろうか。訪問者の多くない地方都市では、そもそもホテルの数が少なく競争があまりない。さらにコロナ禍で、よほど用事のある人しか行かない。そうした客から徴収しないとやって行けない、ということなのだろう。
こうした地方をグーグルマップの写真で見ると、気の毒なまでにシャッター街や荒廃した建物が出てくる。県知事が合同でここまで来ないでくれと言うなか、行ってみたら、地方の衰退ぶりを実感する体験というのは、あまりにも辛いかもしれない。
秋田犬に癒されても、あとは気が滅入るかもしれない体験のために、新幹線・バス・レンタカー・ホテル代を合計して6~7万円の出費をする意味はあるのか。これならカーテンを新調して家でダラダラしていたほうがコスパがいいのか。いやコスパという発想がよくないのか。
新幹線とレンタカーの個別ネット予約が最もおトク
グルグルと無限のループに陥ってしまったが、このプロセスで有益情報も得られた。ついに新幹線の切符もネット(えきねっと)で買えるようになり、しかもみどりの窓口や自動販売機で買うより5%も安くなる。
新幹線は快適、便利、正確であることで世界トップの鉄道でありながら、なぜ駅まで行かないと切符を買えないのかは、米政府関係者の訪日サポートをする私の元職場でも長年の謎であった。全くの想像ではあるが、旧国鉄としては窓口業務を行う社員をどうするのかという労働問題があったのかもしれない。長期的な雇用方針によって、ようやく何らかの解決の目途が立ったのだろうか。
新幹線とレンタカーを合わせて取ると割引になる「レール&レンタカー」というサービスもある。だがレンタカー料金が結構高く、えきねっとトヨタレンタカーで別々に予約したほうが3000~4000円安い。
こうしてみると、ますますJTBのような旅行会社によるカウンター販売は需要がなくなっていくだろう。旅行に関する知識豊富な社員の方は気の毒だが、最近では文章力のあるネットユーザーによるGoogleレビューも目を引く。
例えば、検討中の東北旅行で新幹線に乗り換える大宮駅について調べていたら、以下のコメントがGoogleに載っていて思わず笑ってしまい、また感心した。
日本有数の「キャラの濃い町」。一方で武蔵国一宮、氷川神社の参道に直結している。盆栽の町でもある。もう一方で、浦和に匹敵する都会で、若者が多く活気で溢れている。プロサッカーチームは云うまでもなく、埼玉県を代表する博物館も複数近くにある。そういった意味で2つの顔を持っている。そして、埼玉県の県民性を考える上でもこの大宮駅の南と北で文化が異なる。南は電車社会、北は車社会。南は東京の属国、北は独立国。
こういった観察眼の鋭い一般人のコメントのほうが、一般常識の域を出ず説教に終始する大手新聞の論説よりも的を射て学ぶところが多い。新聞が売れなくなり、テレビの視聴率が落ちていることもうなずける。マスコミ出身者として思うところもあるが、今後の人生を考えるうえで非常に興味深い動きである。