岡山2日目は天気予報どおり雨模様。後楽園には昨日に行っておいてよかった。
前日はかなりの強行軍だったので、朝はベッドでダラダラ。ユニットバスで入浴はすませたが、大浴場の温泉があるのを忘れていた。
岡山駅はのぞみの停車駅で山陰への特急もあり、弁当屋のほかスーパー、コンビニも充実している。次の目的地の足立美術館へ向かう列車で食べられるよう、ランチときびだんごを調達。
流行りの瀬戸内レモン味もあるが、和菓子との相性はどうだろうか。ほかの味よりやや売れ残っているようなので、売り切れになっている抹茶味についで残り数が少なく、無難と思われるきなこ味にする。
昭和の特急に魅了される人々
特急やくも号のホームでは、鉄道少年たちが写真を撮影している。モハ381-71という車両で1982年の製造だという。「あずさ2号」の時代を彷彿とさせる。
さすがに年季が入っていて、首都圏の特急のようにピカピカではないが、洋式トイレや洗面所は揃っている。
列車は岡山駅を出てしばらくすると大自然を行き、商店がまったくない風景が続く。買い物は大変だろうと思う。そうした山間地で絶景スポットなのか、プロ仕様のカメラを三脚に設置して、列車を撮影しようと待ち構えている人々を時折車窓から見かける。
田畑に囲まれた足立美術館
岡山駅から2時間20分で安来(やすぎ)駅に到着、島根県に初上陸! ホームでは安来節のメロディーが流れている。
安来駅から足立美術館には無料シャトルバスが出ている。乗客は私のほかに中年男性1人しかいない。
蕎麦屋や美容室、自動車ディーラーの店がいくつか見えたあとは、田んぼや畑が続いて20分で到着。
足立美術館は島根県の農家に生まれて商売に成功した足立全康(ぜんこう)氏が創設した。横山大観のコレクションがあり、特に有名なのは庭園である。
米国の雑誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」が日本庭園のランキングを2003年に開始以来、20年近くナンバーワンとなっている。
東京郊外の庭師である知人が来訪し、きれいさに驚いていたので、私も訪れることにした。東京から島根まで見に行く意味があったとプロが感じた庭園はどんなものか。
息苦しいほど完璧主義の管理
百聞は一見に如かず。思わず納得した。つまり家主の意向に合わせて他人の庭をきちんと整え、管理することが職業の人には参考になるのだろう。個人宅の庭師、ホテルやオフィスビル、高級マンションのデベロッパーや設計士といった人々だ。
足立美術館の庭は葉っぱひとつ落ちておらず、どこか息が詰まるほどきちんとしている。だが全体的なデザインはどこかで見たような日本庭園である。
桂離宮のように月見に合わせて離れがいくつもあったり、特徴のある数々の灯篭、庭石の由来や設置する角度など、あらゆる面で意匠を凝らしたうえ、全体としてまとまりがあり、見る者を飽きさせない庭とは異なる。
つまり個人宅の日本庭園を大きくして、管理を完璧にしたもの。それが足立美術館である。
「日本庭園ナンバーワン」には違和感
おそらく誰が見ても、日本庭園ナンバーワンというのは違和感がある。米国の雑誌に足立美術館1位、桂離宮2位に言われても「なんですか、それ」としか言いようがない。
上記の米国誌による日本庭園ランキング開始以来、足立美術館しかトップになったことがない、というのも胡散臭い。
商才のある足立氏は、ランキング好きな米国気質に注目したのかもしれない。
さらに考えられる背景として、島根県の出雲大社は神話時代に日本を建国した大黒様を祭っている。大黒様は天照大御神に日本統治を引き継がせた。この経緯を見れば、出雲大社>伊勢神宮(皇室)という上下関係が成り立つ。
そうした出雲大社のお膝元だからこそ、皇室施設である桂離宮より自分が優れている、という大胆な発言ができるのだろう。
米国では西海岸を中心として、富裕層で日本文化に入れ込んでいる人々が結構いる。オラクルのCEOラリー・エリソン氏は日本から庭師を招き、自宅の庭を桂離宮そっくりに造ったという。サンフランシスコの高級住宅街には、安土桃山時代の屏風絵など日本の古美術品を売る店もある。
自らの基準を世界に広めるのが好きな米国気質から、こうした界隈の人々は独自の日本庭園の基準を作りたいと思った。件の米国誌の創刊者は日本での庭園評価の基準が歴史的な重要性に価値を置いていることに不満を持ち、この日本庭園ランキングを始めたという。
いや。。どうですか? プーチン氏いわく「米国はあらゆる分野で国境を侵害し、自らの価値を押しつけてくる」とする演説、また繰り返し述べている「米国の低レベルな文化」という発言を思い出す。
世界に反米勢力が存在する理由として、米国の一部の人々による厚かましさがあるのではないかと思う。外国文化に造詣が深く、非常に繊細な感覚を持つ米国人も少なくない一方で、人間の習性としてネガティブな勢力には特に関心が行ってしまう。
「米国の低レベルな文化」については、サンフランシスコのゴールデンゲート公園にある日本庭園と、モナコの地中海沿岸にある日本庭園を比べてみれば、そのような発言も無理からぬと言わざるを得ない。
一般的な話ではあるが、欧州やアジアの長い歴史を持つ国々は、他国の長い歴史に培われた文化についても理解力があると感じる。
一代で築き上げたエネルギー
正直なところ、米国による日本庭園ランキングには不快感すらある。
ただ庭園や美術に興味のある個人が、農家の出身というだけで、自らの興味の追求をあきらめるべきなのか? そうではないと足立氏は考え、自分の庭園と美術館をつくったのだろう。
京都の庭園が圧勝である理由は、京都の庭師が歌舞伎役者より長い歴史に支えられ、世襲制の特権階級しか持てない美意識や手法があるからだ。
それを考えれば、足立氏が一代でこれだけ築き上げた努力とエネルギーは、周囲の人々への刺激となっているのではないだろうか。