2016年7月1日金曜日

メディアリテラシーの重要性

 新聞やテレビの言うことを鵜呑みにするのではなく、批判的に分析する「メディアリテラシー」という概念がある。長年ジャーナリストとして働き、今ではマスコミにニュースを提供する立場になって十数年経って思うに至った、自分なりのメディアリテラシーについて書いてみたい。

 まず第一にいえるのは、マスコミに出てくるニュースは本当に起きていることのごく一部に過ぎない。プレスリリースとして発表される内容は、関係者が長年にわたって行ってきた数え切れないやり取り、根回し、稟議の結果、ついにコンセンサスができ、じゃあこれで行きましょうとなったもののみである。一部の関係者しか関わっていない会合もあり、全体像を把握しているのは関係者の中でもごく一握りの人々だ。

 なので、マスコミが報じることを自分が額面通りに受け止めることはほとんどない。最近の例で言えば、EU離脱の旗振り役だったボリス・ジョンソン氏が保守党党首選に出馬しないと発表し、いったい彼は何をやっているんだと言われている。そもそもキャメロン首相への対抗心からEU離脱側に回り、首相の座を狙っていたのに、と。確かに彼の行動は不思議だが、ここまで自滅的に見えることをするには、それなりの背景があるのではないかと想像する。

 世の中には驚くべきことが後からわかり、公文書の公開で明らかになっていても、ほとんど伝えられていないこともある。例えば、そもそもEUはCIAの工作による産物であることは、アメリカ国立公文書館のCIA文書で明らかにされ、米国財務省元経済政策局長のポール・クレーグ・ロバーツ氏The Telegraphが紹介している。

 第二の点として、マスコミは世間の耳目を引かないと商売にならないので、その手法の一つとして対立軸を作りたがり、単純化する傾向がある。EUの件で言えば、離脱派と残留派が反エスタブリッシュメント対エスタブリッシュメントなど。だが世の中はそれほど単純ではない。私はこれまで8人のイギリス人に直接意見を聞いたが、自分は反エスタブリッシュメントだとか、あるいはエスタブリッシュメントだとかいう見解は皆無だった。残留派の「離脱派はバカだ」といった暴言は聞くに堪えず、離脱に投票した人々の理由も様々で、離脱か残留かでさんざん悩み、ついに棄権した人が8人中2人もいた。

  真実としてはあれもあり、これもあり、いろんなことがあり、知られていないこともあり、結論としてはなんだかよくわからない、ということでも、それでは記事にならないのだ。

 対立軸を作る方法として、「ある意見を書いたら、必ず反対意見も書け」と部長・デスクは記者に指示する。これは日本の新聞に限らず、欧米メディアもそうだ。私が留学したコロンビア大学ジャーナリズム大学院は英語圏メディアに多数の有名ジャーナリストを輩出している学校だが、そこでも"to be sure graph"を入れろと言われる。 Aと言う見解を紹介したら、その反対のBという意見についての(para)graphも書け、ということだ。

 こうした単純な対立構造をあおる危険性は、アル・ゴア氏が自らのプレゼンを映画化した「不都合な真実」でも詳述している。大多数の科学者が気候変動の脅威について同意しているにもかかわらず、少数でも懐疑派は存在しているため、両論併記した結果、バランスの悪い記事になっている、と。

 第三に大手マスコミは多国籍企業から広告費をもらっているため、どうしてもスポンサーがいやがることは言えない。インターネット時代でメディアが無料で記事を提供するようになったということは、誰かが広告料等でその費用を出しているわけで、その傾向は強まっているかもしれない。多国籍企業は当然EU残留のほうが市場混乱もなく、単一市場で商売もしやすいので、そちらを応援するだろう。

 さらには、諜報機関に詳しい専門家は、そうした勢力がマスコミを情報操作に使っているとも話す。外務省でウクライナ、キューバ、テルアビブ、モスクワ、EU本部、国連本部など政治的ホットスポットを歴任してきた馬渕睦夫元大使は言う。「BBCは例えば100件あるニュースのうち、1件に大ウソを紛れ込ませている。99件は本当のことを伝えているので、残りの1件も本当だろうと普通の人は考えてしまう。だが逆に言えば、その1件で情報操作するがために、本当の99件を伝えているのだ」

 ではマスコミや権力組織の外側にいる人々はどうすればよいのか? 馬渕氏は「常識で考えてみましょう」と言う。そして、ある事件というよりも、その結果なにが起きているかに注目すべきだ、と。例えば、国民の世論が本当にぱっかり二分されているだろうか。あるいは、頻発するテロが起きた結果、得をしているのは誰なのか、など。

 「人の本音を知るには、その人が言っていることよりも、行動をみればわかる」と言われる。 「是非また一杯やりましょう」と言う人と、すでに会う約束をした人がいたら、どちらが本気で自分に会いたがっているか一目瞭然である。 

 マスコミは本質的に偏った報道をせざるを得ない以上、ベストな方法は直接関係者に話を聞くこと、それから広告料に影響されない書籍を読むことだ。同じテーマでも、新聞・テレビの言っていることと、専門家が本で詳述している内容が正反対で驚くこともある。