2016年7月22日金曜日

米国大統領選 スピーチ比較

 米国留学中の2000年、CNN本社で日本語版ニュースサイトの立ち上げプロジェクトに加わった。隣の公園でアル・ゴア氏が演説に訪れ、ちょうど副大統領候補に選んだばかりのジョー・リーバーマン氏に群集が集まり、ゴア氏の周辺に実は人があまりいないのを察知、すばやく近づいて握手をしてもらった。真夏の暑さで顔が赤くほてって汗だくになり、肉厚の手だったのを思い出す。

 あの頃のゴア氏はすごくハンサムで筋肉質だったが、いつの間にか年を取り、贅肉もついてしまったようだ。自分もやや似た軌跡をたどっているわけだが。。。(汗) その後、ゴア氏とは仕事を通じて2回ほど直接会話をする機会があり、とても思いやりのある方という印象が残っている。

 そして2016年。ドナルド・トランプ氏の"We will make America great again!"というキャッチフレーズは、2008年バラク・オバマ氏の"Yes, we can!"をやや髣髴とさせる。だが今年の共和党大会でのトランプ氏の75分にも及ぶスピーチをじっくり聞くと、はるかに重いメッセージとして伝わってくる。

 工事現場の労働者や職人とも直接話すので彼らの状況がわかると言うが、 どこまで本当に理解しているのだろうか。トランプ氏は親から引き継いだ財産をもとにビジネスで成功し、ニューヨーク一等地の豪邸に住んでいる。だが、どうやら人間の最終的な願望として、経済的な成功を収めた後は広く社会に貢献したくなるようで、そうした情熱をこれでもかと伝えてくる75分だった。

 一方、8年前に大統領候補として彗星のごとく現れたオバマ氏はモデルのような長身で、ハーバードロースクールで鍛えた弁舌で若者を魅了した。当時の私は"Yes, we can!"と言われても、なにをできるのかいまいちピンと来ず、コカコーラのコマーシャルのように心地よいが実体はよくわからないセリフ、といった感想だった。だが最近では、少なくとも環境政策ではかなり"Yes, we can!"を実現していると思う。

 今週行われた共和党大会ではトランプ氏の子供達(といっても既に大人だが)が応援演説を行った。メディアが同氏の極端なコメントを強調するのを緩和するため、人間的な側面を紹介する目的で家族を多く出してきたのだろうか。
 
 長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏は父親とはかなり違うタイプで、名門大学で鋭い質問やコメントをする優秀なクラスメートを髣髴とさせ、核心をついたパワフルな語りで最後まで飽きさせることはなかった。トランプ氏が自分の名前をつけたくらいだから、最も手塩にかけて鍛えた子供なのだろう。ただ、「私は教育を受ける選択肢に恵まれていた。全てのアメリカ人に私と同様の選択肢を提供したい」というセリフはどこまで現実味があるだろうか。

 トランプ・ジュニア氏以上にパワフルだったのはルーディ・ジュリアーニ氏である。一言、一言を叫びながら怒りを爆発させ、自分がニューヨークをかつての犯罪都市から安全な都市へと変えたように、トランプ氏は米国を安全にすると訴える。

 いよいよクライマックスでトランプ氏本人の指名受諾演説の前に、同氏を紹介したのが長女のイヴァンカ・トランプ氏だ。トランプジュニアのような怒りモードではないものの、主役を盛り立てていくパワー、知性、説得力は十分。

 残念だったのはエリック・トランプ氏で、月並みで退屈だった。トランプ氏の妻メラニア・トランプ氏は冒頭部分でミシェル・オバマ氏のスピーチの盗用があったと認めたものの、スロベニア出身のメラニア氏のほうがエリック氏より圧倒的によかったと思う。こういう差を目にすると、必ずしもネイティブスピーカーだから英語がうまいというわけではなく、コミュニケーション力、説得力は知性と深く結びついた芸術的センスが重要という気がする。