2022年6月22日水曜日

映画レビュー「トップガン マーヴェリック」

 長年のトム・クルーズのファンとしては、話題の新作が気になっていた。

 ただトムの作品の中で「レインマン」が最も好きな私としては、「トップガン」はあまり印象に残っていない。現在上映中の作品は一作目の続きだと知ってはいたが、今回の作品のほうが一作目よりも素晴らしいというレビューも多かったので、とにかく映画館に足を運んでみた。

 来日記者会見でトムはいかに観客を喜ばせるかを考え、素晴らしい作品ができたと語っている。まもなく還暦を迎える彼が演じる役は、米海軍トップクラスのパイロット養成校「トップガン」の教官として、山岳地帯にある敵の核施設を爆破するという、難易度の高い飛行チームを自ら率いる、というもの。

 中高年の主人公が体力を張って組織に立ち向かい、AIに脅かされて絶滅の危機に瀕した米軍パイロットという職業で離れ業を見せ、最後に絶賛される。強靭な肉体、機体や設備の専門知識、判断力が問われる命がけの仕事ということはよくわかる。

 困難→頑張る→克服→勝利という流れ自体は、映画や小説の王道であり、たしかに観衆を喜ばせる公式のひとつではある。

 おそらくトムはボトックスやヒアルロン酸で無理にしわを伸ばしたりせず、年齢相応のしわやたるみが大画面に映し出される一方、太い腕っぷしや鍛え抜かれたマッチョな肉体から、相当なトレーニングを積んでいると想像できる。

 トムが年齢に関係なく、軍隊という政府組織で上官の命令を無視しながらも自らの判断を貫いて成功し、サングラスをかけて大型バイクに乗り、バーテンダーの女性を夢中にさせる。

 そうして頑張っている様子に感動したのか、すすり泣きをする男性も観客にいた。若々しい姿を見せることでトムの同世代を勇気づけることが、この映画の趣旨なのだろう。

 ただバーテンダー役を務めるジェニファー・コネリーはとても若くて51歳には見えず、二人のベッドシーンはさすがに厳しい。男性プロデューサーが中高年男性の願望をかなえるという観点で採用したのだろう。逆バージョン(中年女性と若い男性)はハリウッド映画ではあまり見たことがない。

 トムの頑張りはすごいし、時間の無駄だとは思わないが、ただそこまで感動する作品でもなかった。ヤフー映画のレビューで5点満点中4.7は高すぎる感じはする。

 筋書を冷静に考えれば、低評価をつけたレビューアーの言う通りでもある。

・ならず者国家が具体的にどこなのかはわからないが、敵国が核施設を作っているという理由でその国の領空に侵入し、核施設を爆撃する。宣戦布告もなしに先制攻撃を行い、その点で真珠湾攻撃と同じ。メディアや岸田首相の言う「力による現状変更」であり、その一方で攻撃する側の米国にも核施設はある(😅)。

・敵国のパイロットや施設職員を殺して「アメリカ万歳!」と喜んでいる。彼らの命や家族・友人はどうでもいいのか。戦争を美化した危険な映画であり、高評価は宣伝工作の一部ではないだろうか。

・おじいさんが環境や損害を全く考えず、飛び恥(温室効果ガス排出量の最も多い乗り物=飛行機に乗って、温暖化を促すという恥ずかしい行為)をしているだけ。

 さらに私から言えば、ヘルメットをかぶらずにバイクを乗り回すシーンはどうなのか。二輪車事故の防止に力を入れている警察にとっても、好ましくないだろう。

 そもそも国防総省の協力を得た官民共同のプロパガンダ映画であり、中国本土やロシア、イラン、またアフリカ諸国でもまだ上映されていないようだ。

 日本ではこの映画が上映され、ヤフーの低評価も削除されていない。さまざまな映画を観る機会があり、自由に感想を述べたり読んだりすることができ、観客に判断を委ねられる状況は素晴らしい。

2022年6月20日月曜日

百貨店がECサイトに勝つ瞬間とは?

  アマゾンや楽天などのオンライン販売に押され、百貨店は売り上げや店舗数が減少してきた。かつては考えられなかったが三越と伊勢丹も合併し、東急に至っては本店の閉店も決定するなど苦境に陥っている。

 頼みのインバウンド爆買いもコロナの影響でほぼなくなり、今後はどうなるのか。

 そんな中、ある投資家三越伊勢丹の株を買ったという。このYouTuberは20年前に70万円で投資を始めて、今までに1億円を稼ぎ出した。上場企業の社長を6年務めた人物で企業財務のプロであり、経営の良し悪しの見極め方が鋭く、非常に参考になる。

 経歴からも相当な富裕層と思われ、三越伊勢丹の株を買った理由として、バイヤーを伴った説得力のある外商を挙げ、またアプリを活用した顧客管理にもとづく販売戦略も優れていると言う。

 では中間層を含む消費者全体にとって、百貨店で買う意味とは何だろうか。

 ある程度値段が張り、他人のレビューだけでは判断しきれない商品を買うには、やはり百貨店という感じがする。

 例えば、シーツや布団カバーなどの寝具。私の経験で言えば、これまでアマゾンレビューの高評価にもとづいて買ったシーツが、ほどなく薄くなって破けてきた、あるいは洗濯後に縮んでマットレスを包むのが厳しい、といった状況があった。

 その一方で、店頭で納得して買った製品は感触が素晴らしく快眠が促され、5年も使ってようやくくたびれてきた。値段はアマゾンで買った商品の3倍ほどだったが、全体的な満足感やコスパははるかによかった。

 この気に入った寝具の後継品を見つけるべく、徹底した調査を開始した。

 上記の納得した商品のブランドはローラアシュレイで、2018年に日本から全面撤退して残念に思っていたが、昨年に復活して百貨店に出店している。東京では新宿の京王百貨店などに入っている。

 全体的な雰囲気は変わらず、イギリスのB&Bの壁紙のような花柄が中心。だが過去5年で私の趣味が変化したのか、あるいは5年も同じ柄が続いたので今度は少し違うものを求めているのか、下記の柄が目にとまった。


 写真では素敵な雰囲気なのだが、実物を店頭で見るとそこまでのインパクトはなかった。ローラアシュレイの他製品と比べて手触りがザラザラで、そのためか価格帯も相対的に低く設定されているが、それでもシーツ・掛布団カバー・枕カバーの3点を合計すると2万円を超える。

 別のブランド、例えばラルフローレンはどうだろう。高級感は感じられたものの、上記3点で約8万5000円と価格は4倍以上。柄や色もそこまではそそられなかった。

 8万円を出すなら、あまり知られていないブランドであれば5万円程度で同等レベルのものがないだろうか。

 そう推察してググっていくと、ホテルライクインテリアというブランドがあった。ウエブサイトで下記の製品が目を引く。


 上記3点で約4万5000円とほぼ想定内。刺繍による模様という点も高級感があってGOOD。ネットのレビュー評価も高く、人気があるためか完売のアイテムもある。

 実物はどんな感じなのか、ほかにもいい商品はあるだろうかと、新宿伊勢丹に入っている店に足を運んだ。だが刺繍と言われたものの、ぱっと見にはプリントと区別がつきにくく、手触りはよいものの値段に見合う高級感は感じられなかった。

 ネットを見ただけで買わなくてよかったと、心の底から実感した。

 大塚家具はどうだろうか。寝具売り場ではラルフローレンよりも高価格帯の商品を置いている。こちらは刺繍の模様もしっかりと入り、その名も「ルイ14世」というブランドはたしかに高級感が漂う。だが模様がありふれた感じで色もボーっとしている。

 イギリスの花柄やペイズリー柄の愛好者にとって定番のブランドと言えば、ローラアシュレイのほか、ウイリアム・モリス、リバティがある。

 このうちウィリアム・モリスは掛布団カバーと枕カバーを、日本の寝具メーカー・西川が提携・製造している。最も有名な柄はこれだろう。


 私はこの青系の掛布団カバーを2つ持っているが、高島屋と京王百貨店の店頭でグレーとベージュ系の柄に注目した。


 先ほどのローラアシュレイの製品と似た路線ではあるが、手触りはこちらのほうがはるかによく、値段はさほど変わらない。ただし、モリスシリーズとしてシーツはなく、独自に合うシーツを探す必要がある。

 高島屋ではイタリアのMARTINELLIというブランドを勧められ、セミダブルのシーツで1万3000円程度。色合いと感触も素晴らしい。店員さんに御礼を言っていったん記憶にとどめ、京王にも行ってみる。

 高島屋と共通する商品はあるが、モリスシリーズでは京王のほうが品揃えがよい。西川から専門の販売員も常駐している。

 ベージュの掛布団カバーに合う色のシーツ(西川のボーテというブランド)が7920円。たしかに先ほどの1万3000円の製品のほうが感触のよさではわずかに上回る感じはするが、では5000円の差まであるかと言えば、私の個人的な感覚では7920円のシーツでも十分に快適ではないかと思われた。

 最終的にモリスの掛布団カバー+ボーテのシーツと枕カバーの3点を2万2000円で購入。これらの製品をググってもみたが、アマゾンや楽天では同一商品はなく、西川とヨドバシのサイトでも京王百貨店と同じ価格だった。ヨドバシではポイントがつくので、厳密に言えばヨドバシのほうが得ではあるものの、現物はなく取り寄せになる。

 徹底的に自分の主観と感性にこだわり、ECサイトと数軒の実店舗をはしごした結果、満足度の高い買い物ができた。

 ネットショッピングでは到底この結論は得られなかっただろう。感触、高級感、色といった主観的な要素が重要な商品に関しては、いくら多数の人々が絶賛するレビューを書いていても、自分はそうは思わないということは、めずらしくない。

 ひとつの目安として、このようなジャンルで数万円以上の価格帯で長く日常的に使う製品の買い物であれば、品揃えのよい百貨店に軍配が上がる。

2022年6月17日金曜日

DeNAの胡散臭い「満員御礼」

 先月横浜スタジアムでDeNA対阪神を観戦した。ふだんは神宮で阪神を応援するのだが、大洋ホエールズ以来、久しぶりに横浜球場に足を運んでみた。

 その際になんとも言えないイヤな感じがした。おそらく阪神に限らずビジター球団のファンの方々に参考になると思うので、気になった点についてお伝えしたい。

1)三塁側に「DeNA応援専用席」

 球場を見渡すと一塁側はもちろん、三塁側にも青いユニフォームを着たDeNAファンが目立つ。東京には巨人とヤクルトがあるが、横浜にはDeNAしか球団がないため地元愛が強いのかと思いきや、そうではない。

 なんと三塁側にもかなり広い範囲で「DeNAの応援専用で、ビジター球団の応援は禁止」という席を数多く設けているのだ。

 阪神タイガースは全国的に人気があり、最下位だった時でも観客動員数は12球団でダントツ1位。その阪神戦が10日後に迫っているにもかかわらず、6月28日には三塁側も数多く売れ残っており、下記の図で壁から左側のDeNA応援専用席エリアに集中している(薄い水色が販売中の席)。


 そうか。。先月観戦した際に毎回(つまり1試合で9回も!)DeNAのチアガールが三塁側の前にも現れてウザいなと思ったが、そういうことだったのだ。神宮ではラッキーセブンの前に一塁側の前で応援する程度だが、毎回しかも三塁側でもというのは度を越えている。


2)試合中に場内スピーカーでDeNA応援団のラッパや太鼓の音を流す

 これも「ルール違反」と言えると思うのだが、ウグイス嬢が試合の流れを伝えるスピーカーを使って、DeNA応援団のラッパや太鼓の音を場内全体にガンガンに響かせている。DeNAの攻撃中はこれがずっと続く。このため9回裏の「あと一人」コールも打ち消され、DeNA応援団の演奏が鳴り響く(下の動画を参照)。


3)三塁側でもDeNAのユニフォームを女性客に配る

 私の席は三塁側寄りのバックネット裏だったが、入り口で荷物検査を終えると「女性だけに」DeNAのユニフォームを配られた。

 女性ファンを増やしたいという意向はわかるが、三塁側でも配るのはどうよ。。例えば、トラ一色の衣装をまとったマッチョでこわもてな男性にも同じことができるだろうか?😂

 そう考えると、女性なら怒鳴ったりしないだろうと、バカにされていると思えなくもない。「女性優遇」でフェミニズムを推進しているつもりかも知れないが、逆効果と言わざるを得ない。このユニフォームを阪神ファンにも配る余裕があるなら、チケットの値段を下げてくれ😡。


4)試合の途中でDeNAファン向けのイベントを挟む

 これも上記と関連するが、試合の途中で2回ほど、突然DeNAのユニフォームを着た少女たちがセンターのあたりに現れて投球するというイベントが行われた。

 試合前であればわかるのだが、試合の途中でペースを乱すような中断はどうなのか。勘ぐりすぎかもしれないが、女の子を使えば観客も文句を言いづらい、という心理効果を利用していると言えなくもない。

5)球場の敷地内にタイガースショップがない

 神宮では敷地内にも三塁側にはテント式のタイガースショップが出るが、横浜ではDeNAショップのみ。

6)隣席のDeNAファンの独り言がうるさい

 これは偶然なのだろうが、隣席のDeNAファンがずっと独り言を言っていてうるさかった。中学や高校の体育部のように、DeNAの投手がストライクを出す度に「ナイスボール!」と言い、リクエストが出れば「あれは〇〇だよ、XXでしょ」と講釈を述べる。

 こちらから話しかけるべきなのか悩んだのだが、なにかの営業職で試合後もしつこく連絡してきたら面倒だ。独り言でもヒットが出た時に「やった!」と言うくらいなら普通だと思うのだが、ずっと一人で話し続けるのは、ちょっと変な人という感じもする。

 いずれにせよ、中年女性が一人で観戦する場面としては珍しい。彼女はDeNAの社員だったのだろうか。。??

7)試合終了後に一桁単位で観客動員数を発表する

 DeNAという実力や人気の低い球団が観客を増やすためには、常軌を逸したとしか言いようのない、球団側の行動が必要なのだろうか。

 阪神戦で満員御礼に近かったためなのか、試合終了後に電光掲示板で観客動員数が示され、アナウンスも流れた。

 おそらく会社をあげて集客のプレッシャーもあると思われ、もしかしたらDeNAの社員は横浜スタジアムのチケットを営業に使ったり、あるいは顧客にチケットを買ってもらったら、何らかのインセンティブがあるのかもしれない。

 あくまで想像ではあるが、観客動員数の発表には、営業成績を示してプレッシャーを関係者に与えるという意味合いもあるのかもしれない。

 横浜スタジアム自体は席の段差もかなりあって、前列の人の頭を気にせずに観戦できるのはよい。近くに素敵なエリアもあり、観戦のついでに散策も楽しめる。

 だが大洋ホエールズ時代にはなかった、DeNA独特のギラギラした感じが胡散臭く、横浜での観戦は二の足を踏んでしまう。結果として球団イメージやチケット販売の低下にもつながると思われ、DeNAにとってはマイナスではないだろうか。

2022年6月12日日曜日

ロシア専門家が米政府から追放された理由とは?

 "Putin's Playbook: Russia's Secret Plan to Defeat America"の著者Rebekah Koffler氏はソ連時代のカザフスタン出身。モスクワ国立教育大学を卒業後、自由の国・アメリカに憧れて移住した。

 母国語のロシア語とロシアに関する専門知識を生かし、米国の諜報機関で働いた経験をもとにプーチンの米国戦略を詳述している。

 だが最も興味深い部分は、彼女自身の米政府内でのキャリアの軌跡である。

 著者は2001年の同時テロにショックを受け、新たな母国である米国を守りたいという熱意を持つ。同時テロ関連の会議で講演したFBI捜査官に話しかけ、米国内の外国人犯罪に関する仕事を希望する。そしてオファーをもらうものの、身元調査の結果、父親がカザフスタン在住で米国の機密情報が洩れる恐れがあるという理由で採用は却下される。

 それでも新天地・米国のために働きたいという意欲は冷めることはなく、中央情報局(CIA)と国防総省の諜報機関である国防情報局(DIA)にも応募してオファーを得る。

 だがここでも、身元調査で問題となる。米国の諜報機関は、海外在住歴の長い人材を避ける傾向にあるという。外国の影響を強く受けていること、また外国語を流暢に使えることで外国の諜報機関の二重スパイになる可能性があるからだ。

 特に採用担当の管理職は、もし自分の採用した職員が二重スパイになった日には自分の立場が危うくなるため、組織が本来必要としている真のエキスパートをあえて採用したがらない。

 こうした背景のもと、著者は2001年にCIAとDIAからオファーを受けたまま、身元調査の段階で7年間もの長きに亘り宙ぶらりんの状態に置かれた。長年のCIA職員である知人に相談したところ、CIAとDIAの各長官に直接手紙を書くことを勧められた。トップの命令であれば中間管理職を動かせるだろう、と。

 結果として著者は晴れてDIAから正式に採用される。ソ連時代の警察国家で抑圧され、物資の不足した環境で育った彼女にとって、物質的に豊かで自由な米国がありがたく、恩返しをしようと人一倍まじめに働いた。

 米政府高官から名指しでブリーフィングを求められることも多く、またNATO会合に呼ばれて講演を行い、DIAの評判を高めた。

 トップレベルの高官には感謝されたものの、直属の上司は彼女の活躍ぶりを気に入らなかった。ある日、上司のオフィスに呼ばれてこう言われる。「君はまじめに働きすぎる。それは困る。ほかの部下たちに高評価を出せないじゃないか」

 上司の言い分は全く理解できず、著者は米政府の各官庁に置かれている苦情処理機関のOffice of Inspector General (OIG)と雇用平等担当に相談する。だが理不尽さを解決するはずの、こうした機関も上司の肩を持つだけで頼りにならない。

 そうこうするうち、NATOから再度講演の依頼が来たものの、DIAは著者ではなく別の男性同僚を演者に選ぶ。あれほどDIAへの評判に貢献したのに、外されるとはどういうわけなのか。

 NATOでの講演を取りまとめるチームリーダーの男性職員は陰鬱な表情でこう説明した。「あなたと私が親密な関係にあるとして、えこひいきで私があなたを演者に選んだと訴えた職員がいる。だから今回はあなたをブリュッセルに連れて行けない。別の男性職員に講演をしてもらうので、彼が講演内容をまとめるのを手伝ってほしい」

 チームリーダーとは完全にプロフェッショナルな関係であり、やましいことは全くない。本当に悔しかったものの、リーダーの指示には従った。結果的にこの訴えは証拠不十分で却下されたものの、その先にはもっと驚く事態が待ち構えていた。

 卓越した仕事内容が認められた著者は、米政府の諜報機関全体でサイバー分野のナンバーツーとしてCIAに2年間出向する昇進ポストに応募して合格する。

 この素晴らしいポストに心躍り、迎えた初出勤の日。「身元調査が通らない」という理由で就任できなくなる。DIAではすでに最高機密を扱うために必要な身元調査の承認は下りており、だからこそDIAに勤務してきた。この承認はCIAにも適応されるルールになっている。なぜ身元調査がこの時点で問題になるのか?

 誰に聞いても答えはわからず、著者はたらいまわしにされる。このCIAポジションは空席のまま、CIAとDIAで別の仕事をやることになる。

 全く訳がわからない状況のなか、DIAから出張を命じられる。帰りの機内で著者はロシア語の軍事情報誌を読んでいた。隣席の男性に話しかけられ、彼の話す内容は支離滅裂でしまいには「飛行機から飛び降りる」と言う。客室乗務員を呼び、飛行機は緊急着陸する。

 機内に乗り込んできたFBI捜査官に、どういうわけか客室乗務員は著者が問題人物だと伝える。彼女は完全に理解不能な状況のまま手錠をかけられ、FBIに連れ去られて尋問を受ける。最終的に身の潔白は通って帰宅する。

 翌日に出勤した際に職場の規定に従い、事の次第を担当部局に報告する。するとウソ発見器にかけられ、担当者から質問されて答えた内容が「気が狂っている」と判定され、2015年に著者は7年間勤めたDIAを一方的に解雇される。

 この不可解で理不尽な状況に不服を申し立てるが、例によってDIAのOIGは頼りにならない。米政府で働く外国出身者が不当に解雇される例は珍しくはなく、こうした事柄を専門に扱う弁護士もいる。

 著者は夫と相談し、大枚をはたいて専門弁護士を雇うが、1人目は思うような結果を得られず、2人目も同様だった。3人目は女性差別に詳しく「国防総省の女性職員から毎日のように相談がある」という。だが、この弁護士に依頼するにはさらに6万ドルが必要だった。著者と夫はこれ以上戦いを続けると老後資金を失い、家庭崩壊の危機に陥ると判断して断念する。

 抑圧的な警察国家・ソ連から逃げ出して自由の国に来たはずが、米政府でも似たような運命をたどることになった。著者と似たような経緯で退職した同僚もいる。さらにはオバマ政権の二期目にDIAのロシア情勢に精通した専門家の多くが、別の地域担当に異動させられた。こうした理由が著者には皆目見当がつかないという。

 ウクライナ情勢が米国とロシアの代理戦争の様相を呈しているが、その一方で米軍の諜報機関であるDIAからロシア事情に精通した専門家が意図的に追い出されていた、ということのようだ。

 前述したように、そもそも米国の諜報機関は海外経験の豊富な人材を雇いたがらない。現地語の能力や地域事情の理解に限界のある職員が多数派であり、相手をよく理解しないまま対立を続けている、ということになる。

 さらには米国に17ある諜報機関のうち、2017年に機密解除された報告書"Assessing Russian Activities and Intentions in Recent U.S. Elections"を書いたのはCIA、FBI、国家安全保障局(NSA)の3つだけで、DIAを含む14の諜報機関は除外されて調整も行われなかった。

 これとは対照的にロシアの諜報機関は米国の社会、文化やメンタリティについて詳細に調べ上げ、それをもとにSNSやサイバー攻撃を駆使して米国内の分断を深め、長期的な国力を弱めることに成功している、と著者は述べている。

私の分析

 米政府に日本人職員として16年間勤めた私の経験から、この驚くべき展開を分析してみたい。

・政府機関のような大きな組織では、ヒエラルキーを超えて活躍する人材はあまり好まれない。直属の上司よりも優秀だと周囲に思われると、上司としては気に入らず、扱いづらい部下になる。

・このため上司自身が優秀で器が大きく、部下を育てる姿勢がないと、いくら頑張っても報われず、むしろマイナスになる。大御所で有名な組織のほうが、こうした人材がいる確率は高い。

・私自身の経験で言えば、大学の成績が悪すぎて退学させられた経験を持つ上司のいる官庁もあった。彼は締切りを守らず、何度もリマインダーが必要であり、「やる」と約束したことをやらない。これに対して、例えば国務省は有名大学出身のお坊ちゃまが主流で、ここまでレベルの低い職員には会わなかった。本書から判断するに、どうやらDIAはあまり優秀な人材が多くはないのだろう。

・OIGや雇用平等担当がきちんと機能しているかは、組織自体のモラルによる。意識の低い人材が多数派の組織では理不尽さがまかり通るが、国務省では人権意識や理想の高い職員が結構いるので、かなり機能している。

・アメリカ人は見た目、周囲にどう思われるかを非常に気にする傾向がある。儒教国家かと思うほど、上司を立ててよく見せてあげるのがポイント。

・どの官庁だろうが、ええっと言うようなレベルの低い上司にぶち当たることはある。そうなったら最後、覚悟を決めて上司が異動になるまで耐えるしかない。この本の著者の上司は「そんなに真面目に働くな」と言うわけだから、ユルユルにやればよかった。

・著者はそれをしなかったので上司に嫌われた。このため米政府全体としてロシア専門家を減らす動きがあった時にターゲットにされ、追い出されたのだろう。

・本書は著者の職場経験の部分はかなり興味深いが、その他の箇所は文献からの引用がやたらと多くて読みづらい。英語の語彙は豊富だが、文章の流れがよくない。モスクワ国立教育大学はどうやらトップ校というわけではない。これに対して、有名校のエッセー考査や試験を通り、米政府で報告書や公電を多数書いた経験のあるアメリカ人は文章力が高い。

・著者は自分がいかに優秀で政府高官から重用されたかを強調している。今まで職場にいなかったロシア語ネイティブであり、ロシア事情に精通しているため、新たな情報がDIAにもたらされたからだろう。しかしながら、英文レポートの作成能力は、英語圏の有名大学やOJTで訓練を積んだ職員よりは劣っていたのではないだろうか。

・とは言いながら、文章力の高くない職員はほかにもいるだろう。外国出身で米国では小柄(158センチ)の女性は、それだけで、背の高い白人男性の社会でバカにされ、不利な立場に陥りやすいのは事実。競争の激しい職場ではなおさら。

・このため差別撤廃の手段として、クオーター制は意味がある。そうでもしないと、いつのまにか白人男性のジャイアンタイプ、もしくは特別のコネがあるお坊ちゃまの世界が続くことになる。

2022年6月5日日曜日

雨の月曜日

 「6月6日に雨ザーザー降ってきて。。」という歌があるが、まさにその通り。

 この本降りの中を傘を差して家を出て、ウォータープルーフの靴のはずが水が浸入して気持ち悪い。あるいは足に合わず靴擦れで痛い。テレワーク解除の会社も結構あり、職場では上司や同僚と顔を合わせる。

 スタッフミーティングではメールで事前に知っている事柄の確認+若干の説明。会議の主な目的は情報伝達というよりも、一定の時刻と場所に部下を集めて静かにさせ、話を聞かせるという権力を上司が示すため。話の内容よりも、この形態が重要であり、軍隊でいう行進のようなものだ。

 職場では様々な指示や依頼、問い合わせがあり、それらに対応していると定時を迎える。複雑な英文の文書も読み、英語で会話をするので英語の勉強にもなる。

 平和な職場の一日はこんな感じだったと思う。適度な栄養+添加物の入った幕の内弁当が支給されるイメージ。自分でアラカルトを注文する必要はない。

 異動の行き先が戦場のような職場もあった。複数の組織の縄張り争いでルールや法律はあってないようなもの。米国VSロシアの対決が本国ではなく、ウクライナで行われる。自分はウクライナ。大国同士がウクライナを取り合い、最終的に自分が攻撃される。米国とロシア、どちらにつこうが、つかなかった相手に攻撃されるのだ。立場上、独立など決して許されない。

 現在では、どんなどしゃぶりだろうが、家にいればいい。いいお天気であれば、その日の朝に何をするかを決める。旅行や遊びの内容は事前に調査済みで、ホテルの直前割などによって最終決断する。

 なんだか調子が悪いなという日は誰にでもある。そんな日はダラダラと寝ていればOK。遅くとも2~3日後には回復している。そのおかげで仕事を辞めてから風邪すら引いたことがない。時間に縛られず、完全に自由な生活の最大のメリットはこの点にある。

 ちまたのFIRE本などで、かなりまじめに投資関連の勉強をした結果、お金に働いてもらっている。売却益にかかる税金は国税・住民税込で20.315%と給与所得にかかる税金よりも安い。

 そうか、資本家ってこういう感じなのか。もしくは部下に仕事をやらせる上司と同じかもしれない。いかに働き者で利益を上げている会社への投資を見極めるか。そのほうが自分で必死に働くよりも、はるかに効率的だと思うと、やや複雑な心境でもある。