クラシック音楽鑑賞は私の趣味だが、交響曲や協奏曲が中心だ。オペラはたまに見るが、それほど関心や知識がない。だが三大テノールという言葉は聞いたことがある。
この映画は三大テノールが結成された経緯や裏話を紹介するドキュメンタリーである。2020年作ということで、このコロナ禍でよく製作したなと興味を持った。先週金曜に封切られたばかりで、都内では文化村と立川の二カ所でしか上映していない。ネットで予約状況を見るとかなりガラガラだったので、密になることもなかろうと思い、ぶらりと行ってみた。
平日の正午。観客はまばらでほとんどが中年女性である。
それもそのはず。映画に登場する歌はこんな内容だ。
嵐の後のすがすがしいお天気。さわやかな空気はお祝いのようだ。太陽はなんと美しいことか。だがもっと美しい太陽があなたの顔に輝いている。
オーソレミオがこんな歌詞だとは知らなかった。少なくとも普段の生活でこんな風に言われることはない。日本では皇室の内親王も「月」などと言われてしまう。
さすがイタリア。同じヨーロッパでも、こういう歌がこのドキュメンタリーを作ったドイツ、あるいはイギリスから出てくる感じもしない。やはりギラギラと照りつける太陽とそれが生み出す地中海気候の産物なのだろう。
オペラは思いっきり感情を吐き出す芸術である。だが一般的に大人、特に勤め人となると感情は禁物だ。オペラの歌詞に出てくるような言動を職場で取れば、セクハラやストーカーになってしまう。感情を抑制する達人が出世してお金持ちになり、その過程で犠牲にしてきた様々な感情の発露を見て楽しむために、オペラのパトロンになっているのかもしれない。
映画そのものの感想だが、三大テノールはいかにもヨーロッパらしい。イタリア人とスペイン人2人で構成され、仕事の打ち合わせは英語で行われる。 事の始まりはサッカーのワールドカップの主催国となったイタリアが、雰囲気を盛り上げるためのサイドイベントとして行った一度限りのコンサートだった。主催者側は観客が十分に入るか不安だったため招待席を数多く確保し、販売チケットは1枚15ユーロだったという。
これが大受けしたため、米国もWカップを主催した際に開催地のロサンジェルスでドジャーズ球場をリノベして同様のコンサートを行った。米国文化に敬意を表し、三大テノールの選曲には「マイウエイ」「ムーンリバー」といった歌も含まれた。しかも観客にはフランク・シナトラもいて満足そうな笑顔を見せ、マイウエイが終わった瞬間に立ち上がって拍手した。
こうしたオペラの「大衆化」に批判的な人々もいたが、結果としてはオペラ業界の発展につながり、これまで日の当たらなかったオペラの分野にも資金が行くようになった。
総じて言えば、オペラの専門知識がなくても楽しむことができ、クラシック音楽業界の舞台裏やお金儲けの仕組みもわかる内容になっている。
