2019年8月16日金曜日

1980年代のバブル女子大生をやってみる

 1980年代のバブルは女子大生ブームとも言われ、JJやCanCamといったファッション雑誌に「S女子大学」「家事手伝い」といった肩書の若い女性がコンサバな洋服に身を包み、読者モデルとして登場していた。

 私の通った東京外国語大学はそうした華やかな世界とは一線を引き、専攻語学などの勉強に血眼になっている学生がほとんどだった。「自宅から通える国立大学に現役合格」を条件に親と交渉して大学進学を認めてもらい、見事目標を達成した私としては単位を落として留年という選択肢はあり得ないことは明白であった。

 勉強、片道2時間以上の遠距離通学、家庭教師のバイト、家事以外のことをやる時間はなかった。母は自分のキャリアに邁進し、子供の勉強や生活には関心がなかった。というかぶっちゃけ第一子である姉には関心があったが、第二子となるとどうでもいい感が満載で行動に如実に現れていた。姉は就学前まで家で育てて幼稚園のみ、私は保育園や学童につっこまれ、母は保育園の行事にも一切参加しなかった。正直、この差はなんなのと思いはしたが、もう7回忌も過ぎ、記憶の浄化作用で最近はポジティブな面を思い出す。

 一つには、母は子供の頃かなりのお嬢様だったためか、洋服のセンスや色、芸術的な感覚、言葉遣いについて、こうでなければならないという絶対的な価値基準を持っていた。今でも洋服を買いに行く時には、母が納得するかどうか、特に色の配色は母の目にかなっているかを真剣に検討してしまう。結果として保守的な傾向になり、若い男性受けはあまり良くなかったかもしれない。だが仕事上で目上の方に引き立ててもらえたり、難関の米国留学奨学金の面接を突破し、米東部の名門大学院を説得した合格エッセーを書けたのは、こうした母の影響があると思う。

 話はそれたが、母は各人に家事の分担を割り当て、私は子供の頃から食器洗いと掃除、自分の分の洗濯をやっていた。

 最近ようやく老後資金の目途も立ち、ハタと振り返ると、自分は若い頃ほとんど遊んでいなかった。そこで今さらながら、あの80年代バブルの女子大生をやろうじゃないか。幸いなことに体型は学生時代と変わらず、着ようと思えばどんな洋服でも着られる。

 そうして新宿高島屋に行ってみると、大学の専攻だった中国語が流れている。中国人観光客が主なお客さんのようだが、最近では米中戦争の経済的影響なのか数がぐっと減り、どこか店員の態度もギスギスしている。
 
 ネットショッピングやユニクロ、無印良品、最近では中国発のユニクロ+MUJI+100均を合体化したようなチェーン店も爆発的に伸びている。日本の百貨店にとっては大変な時代になり、私が見て歩いた限り、銀座四丁目の交差点という立地条件を誇る銀座三越以外は閑古鳥が鳴いている。

 東急百貨店本店もほとんど客がいない。興味深いことにアナウンスは日本語のみで、中国人も見かけない。午前10時開店、午後7時閉店と勤め人すらターゲットにしていない。だが興味深いことに、新宿高島屋と比べると店舗面積はかなり小さいものの、面白いもの、買いたくなるものの品揃えははるかによいと私は感じる。

 気分転換と散歩をかねて店内を一通り歩き、冷やかしで毛皮のコーナーにも立ち寄った。自動車が買えるような値段のコートもあり、イメージとしては真冬にヨーロッパやニューヨークにオペラを観に行く服装といった感じである。この猛暑の中、毛皮を買いに来る人はほぼ皆無のようで、すぐさま店員に声をかけられた。ああでもない、こうでもないというやり取りのあと、「ゴメンナサイ、ちょっと見てただけで完全に予算オーバーなので、また。。。」と立ち去ろうとすると店長が現れた。

 それで10月に消費税が上がるという話になり、「そうですよね」と思い出した。「どんなものをお探しですか?」と言うので、「茶系で襟元だけ毛皮がついていて、丈はひざが隠れるくらいで長すぎないもの。予算は〇〇円まで」と絶対にないよね~~と思いつつ、とりあえず口にしてみた。すると店長は中に入り、しばらくして「ありました!」と意気揚々に出てきた。

「えっ」と私も驚いた。まさにこういうものを探していたのだ。しかも驚きの予算内。東急百貨店はほかの会社と違い、東急カードのポイントアップの時期をかなり以前から教えてくれるのだが、それは1カ月以上先であった。「ポイントアップまでお取り置きなんてできないですよね~~」と聞いてみると、店長は少し考えた末、「もし今買うと決めていただければ、ここから10%お値引きします」と言う。そうすると2%ポイントアップよりかなりおトクである。これは買うしかない。

 こうして倉庫の中にもいろんなものがあり、東急に行けば欲しいものが見つかると確信した。しかも店員さんはみなとても感じがよく、無駄話から結構深い話に発展するほどの会話を楽しめる。

 この余裕は何なのか。東急グループとして東急百貨店の本店を閉店させるわけには行かない、ということなのか? 実際、渋谷駅により近い東横店は来年3月の閉店が決定している。 あるいは店舗はお金儲けが一義的な目的ではなく、時代の波はあれどリアルな買い物の価値を持続的に提供するもの、という位置づけなのか? 

 最近の3Dプリンター技術では洋服のフルオーダーが簡単にできるようになるという。そうなると仕上がりをリアルに体験したり、微調整するためにどうしても客が店に足を運ぶ場面が出てくるだろう。そうした将来の実験の場としても、本店だけはとにかく残すという戦略なのだろうか。

 バブル女子大生をやりつつ、いろいろな想像や妄想が広がって結構楽しい。