今回のベルリン滞在で最後に訪れたのは、ドイツ・スパイ博物館。2015年にジャーナリストのFranz-Michael Günther氏が完全私費でオープン、政府援助は全く受けていない。東ドイツ秘密警察本部の博物館、東ドイツ博物館と同様、膨大な量の資料を非常に興味深く展示している。
ベルリンは冷戦時代、東西陣営の諜報員が往来する「スパイの都」だった。KGBやCIA、Stasi(東ドイツ秘密警察)の使用した器具や手法が展示され、また古来から戦争や小競り合いの続いてきた欧州で暗躍したスパイの歴史を詳しく学べる。私が特に興味を引かれた内容を紹介しよう(←以下は感想。)
米ソ核対立の起源
ソ連は米国ロスアラモス研究所の核研究施設に侵入、自ら原爆を作製する秘密を盗み出すことに成功し、1949年に核バランスを打ち立てた。ドイツの物理学者は東西両陣営の諜報機関に採用された。(←ええっ、知らなかった😅 ワシントンDCにあるスパイ博物館にも行ったことがあり、また私は米政府機関に長年勤めたが、米国側からこうした話が出てくることはなかった。情報収集の方法として、第三者的な立場から重要な知見を得られることは結構ある。)
スパイの歴史と手法
全ての戦争はウソに頼っている。2500年以上前に孫子は言った。(←ウクライナ戦争、中東情勢など現在にも続いているかも。)
インド最古の政治書"Arthashastra"には、支配者は自分の諜報員と毎日会い、敵や自分の部下、諸問題に関する報告を聞くべきだ、と書かれている。
13世紀にフランスで捕らえられたイギリス人Thomas de Turberville卿は、イギリスでフランス側へのスパイ活動を行うという条件で釈放された。イギリス王宮にいた関係で、彼は国家機密をフランスに渡せる立場にあった。報告書は途中で阻止され、彼はイギリス最初のスパイとして明かされ処刑された。
フランス王ルイ13世の首長・枢機卿Richelieuは幅広いスパイ人脈を持ち、うち一人は彼の神父Josephだった。彼はハプスブルク陣営の司令官Albrecht von Wallensteinを訪問してこの人物の野望を知り、情報をドイツの王子たちに流した。こうしてJosephはWallensteinの失脚を画策、ドイツ同盟を弱体化させた。(←敵が相手陣営内に身内の悪口を流して分断させる方法、私もやられたことがある😠)
フランスの絶対君主ルイ14世は郵便局内に「黒い部屋」を設立。手紙を開封して読めるようにし、反政府的な内容は写しを取った。
ドイツはロシア帝国の反体制集団のいくつかに資金援助を行い、敵国の不安定化を企てた。1917年4月、ドイツ政府はレーニンがスイス亡命からドイツ経由でサンクトペテルブルクに行く手はずを整えた。この計画は完全に成功した。1917年10月にレーニンは権力を掌握、ロシアは降伏して1918年3月に第一次大戦・東部戦線の戦闘は終結した。
第二次大戦中、英米など連合国の特別部隊はフランスのレジスタンス、ソビエトのパルチザンといった抵抗集団に武器、機材、ラジオ、地図などを提供した。破壊工作、暗殺、拉致は日常的に行われた。
連合国は敵を欺くことでも見事に成功した。「不屈の精神作戦」ではおとりの戦車や航空機集団によってドイツ軍を混乱させ、Dデーに連合国軍がフランスにいる場所を攪乱させた。二重スパイ「Garbo」によって、最後の瞬間までドイツ軍は間違った情報を信じていた。
東側のスパイは東ドイツ秘密警察のファイルによって明らかになったが、西側のスパイたちはベールに包まれたまま。
諜報活動で使われる動物
イルカの水中音波探知能力はどんな機械よりも正確である。1960年代以降、米国海軍の海洋哺乳類計画では軍事目的で水中哺乳類を訓練している。地雷の発見・除去、船舶・港湾の護衛、機具の回収など幅広く利用されている。(←なんかスゴイね。。同じ米政府でも
海洋哺乳類保護法とは対照的😅)
米国海軍はイルカやアシカを配置して海底の地雷を探知している。ベトナム戦争でもイルカたちは米軍の旗艦LaSalle号を守った。冷戦中、これらの海洋哺乳類は海底からロケット弾を回収するよう訓練された。
ソ連にも海洋哺乳類を訓練する特別部隊があった。1980年代には海軍武器で真剣な競争があったが、ソ連崩壊後この解散した。米国の同様部隊は存続している。
「聴覚用の子ネコ」は1960年代のCIAプロジェクトだった。人に忍び寄って会話を聞くのが目的だった。諜報部門の技術者がネコを手術してスパイ器具を取りつけた。外耳道にマイク、背骨から尻尾にかけてアンテナを埋め込んだ。しかしながら、ネコの行動は制御不能で盗聴作戦で問題となった。
「聴覚用の子ネコ」を試すターゲットは在ワシントンDC・ソ連大使館だった。そこで庭にあるベンチに座っている2人の外交官の話し声をネコが聴くことになっていた。CIA職員が目立たないバンでネコを現場付近に連れて行って放した。だが数メートル行ったところで、これまで手塩にかけて育てたネコはタクシーにひかれてしまった。このプロジェクトは失敗とされ、1967年に終了した。費用は約2000万ドル(30億円)だった。(←こういう話も身内からは中々聞けない😅)
第二次大戦中にも、CIAの前身機関である戦略サービス室(OSS)はネコを使ったプロジェクトを行ったが失敗した。「子ネコ爆弾」という計画で、航空機から敵の艦隊にネコを落とすことになっていた。
ネコの手に取り付けたロープをあやつることで、船上の爆弾を動かすはずだった。ネコは水を避けて本能的に甲板に行くだろうと期待された。しかしながら、航空機の強力な加速によってフライト中にネコは気絶してしまった。
イノシシのルイーズ(1984~1998年)は、地下にスキで2回分掘った深さに埋められたドラッグや爆弾の貯蔵庫を探知できた。肥料などの臭いで包まれていても。ドイツの警察で犬と一緒に訓練され、ルイーズは公式に「探知するイノシシ」として戦力となった。
ブタは優れた嗅覚を持ち、多様な匂いをかぎわけられる。地下に埋められた臭いもわかる。多様な種類のブタが、特に爆発物やドラッグの探知に役立つと証明されている。麻薬商人の取り締まり、地雷の除去、テロの脅威の発見に使われている。
ベトナムのミニブタは1986年に米国で初めて導入され、多くの警察署で麻薬を探知するために使わている。ブタが犬より優れている点として、犬よりも学習が速いと言われ、購入費が低く、平均寿命20歳と犬よりも長生きする。長い毛が生えないため、アレルギー持ちの警察官でも扱える。
ローマ時代には象が戦争に使われ、これを攪乱する対抗措置としてブタが使われた。
ブルドッグとテリーの交配種犬Stubbyは第一次大戦で、犬として初めて軍曹に昇進した。飼い主が召集された際に、米国からフランスへ秘密裏に連れてきた。Stubbyは飼い主の部隊にガス攻撃の警告を行い、負傷兵を探し出し、ドイツ人のスパイを特定した。彼自身の方法で敬礼もできた。数個の勲章を授与され、米国大統領と面会し、パレードに参加した。
CIAとFBIの犬チームはK-9軍団と呼ばれた。1歳~1歳半の犬はまず6週間の訓練で人間のパートナーに慣れたあと、10週間の訓練を受ける。訓練を完了した犬は1万9000種類の爆弾を区別できる。犬とパートナーは強固なチームとして、通常7~8年の任務中ずっと一緒に働く。
第二次大戦でイギリスの特別部隊は死んだネズミに爆弾を仕かけ、敵の工場に配置した。片付けに来た人などに著しい被害が及んだ。
ネズミは嗅覚が鋭く爆発物の探知に使われ、アフリカでは何年もの間、地雷除去に活躍している。体重が軽いため地雷は爆発せず、金属探知機を持って歩く人間よりもはるかに速く作業できる。
ロシアの研究者はネズミの嗅覚と最新技術を組み合わせている。特定の臭いを覚えさせる訓練をしたネズミにチップを埋め込む。こうして、その臭いを発見した直後に脳で発生する生理反応が、中央のオフィスに送られる。きわめて小さな穴からも侵入できる、こうした特別なネズミを使ってテロ対策を行うのが目的である。
スパイが使用した器具
イギリスに亡命したブルガリア人ジャーナリストGeorgi Markov氏は、1978年にブルガリアの諜報機関に暗殺された。その際に使われた、毒物入りの弾丸が装備された雨傘。
パイプに見せかけたピストル。イギリスの諜報機関が第二次大戦中に作ったもので、反ナチス運動のためのスパイ活動や破壊工作のため、レジスタンス集団に装備させた。パイプの後ろの部分を支えながら、吸口を外して棒を回すと発砲する。
カメラケースに入っている間でも撮影できるカメラ(KGB、1970年)