2023年6月26日月曜日

樫本大進ソロ+バーミンガム市交響楽団 ブラームス・バイオリン協奏曲 レビュー

  初夏から真夏へと向かう太陽がギラギラと照りつけ、山下公園では木陰のベンチが全てうまっていた。庭園にはバラの花も咲いていたが、昨年も見たしと断念、目的地まで30分ほど散歩する計画を変更して元町・中華街駅に向かう。

 横浜スタジアムでは熱中症も懸念されるが、今日はタイガースの応援ではない。みなとみらい駅から歩いてすぐ、空調の効いたホールの席に座る。

 午後2時の開演10分前、バーミンガム市交響楽団の首席指揮者・山田和樹氏が一人でステージに登場。ひとしきり、面白い小話で会場を沸かせる。

「イギリス人の気力・体力は世界一じゃないかと感じる。サイモン・ラトルがバーミンガム響にいた理由は、当時リハーサルをいくらでもできたから(今ではイギリスの規則で1日しかできない)。このオーケストラは若い指揮者を採用するのが特徴で、ラトルも前任者も採用時は20代だった。私は40代にして2カ月前に首席指揮者に就任、仲間と音楽をやるのが楽しくてたまらず、世界で最も幸せな指揮者だと感じている」

「樫本大進氏はベルリンフィルのコンサートマスターという、クラシック音楽界最高峰の地位にありながら、大変仲良くさせていただきありがたい。これほどいい男に会ったことがない。人間としての度量の大きさが半端ない。彼とは同年齢、一人っ子、O型という共通点がある」

 ちょっとした裏話で「へ~~、そうなんだ」と思わせる。かつて知り合いが「さだまさしみたいに、本来の音楽ではなくトークがメインのコンサートはどうよ」と言っていたが、この程度であればちょうどいい。

 これとは対照的に某ピアニストはクラシック音楽のさだまさしよろしく、曲間に長々とした説教をさしはさみ、ウクライナ戦争とプーチン批判まで繰り広げ、マスコミに洗脳された単細胞ぶりまで披露していたのとは大違いwww。

 それもそのはず。山田氏は昨年、ラフマニノフの交響曲第二番でBBC Promsデビューを果たし、1時間もの演奏時間に及ぶ大曲をこの日の主演目に掲げていた。ラフマニノフと言えば浅田真央がソチ五輪の出場テーマ曲として選んでいたが、ベートーベンやモーツァルトほど知られていない。この日のコンサートは一曲目がブラームスのバイオリン協奏曲と、こちらもあまり頻繁には演奏されない。

 マイナーと言っては言い過ぎだが、こうした演目ラインナップのためだろうか。日本人の海外での活躍という意味では、野球界の大谷翔平をも上回る、ベルリンフィルの選手会長と言うべき樫本大進氏のバイオリンソロにもかかわらず、会場では両脇の空席が目立っていた。

 PBR(株価純資産倍率)1倍割れで割安のまま放置されている超優良銘柄といったところか。ベルリンフィル自体のチケットは秒で完売という状況を考えると、世界的に有名なオーケストラのチケットを取るのはクラシック音楽ファンに限らないのかもしれない。なんでもいいから有名なものが見たい、と。ミシュラン、飛鳥II、リッツホテルなどなど。

 樫本氏や山田氏には気の毒な状況だったが、おかげで私は舞台後方の最前列中央という、いい場所にもかかわらず割安なチケットをゲットできた。ただ当日気づいたのだが、指揮者やコンサートマスターを見るには絶好のロケーションである一方、バイオリンソロは正面を向いているので、残念ながら樫本氏の顔を拝むことはあまりできなかった。フサフサした黒髪が揺れ、バイオリンを押さえる顎の下の部分に青あざができているのは、時折目に入る。

 私の目的はもちろん樫本氏のソロによるブラームスのバイオリン協奏曲である。ブラームスの交響曲第一番や第四番と比較すると、曲全体としての抑揚、クライマックスに向かうドラマ性などは、そこまではない。

 だからこそと言うべきなのか、全ての瞬間を樫本氏は完全に消化して自分のものにし、全体のバランスを取りつつ、曲の中における小宇宙に輝く星たちを見事に表現している。あれっと思う瞬間はゼロ、野球で言えば完全試合。聴いていて涙がにじんできてヤバい。阪神の大竹投手だったら、大泣きしてタオルで目を覆うところだwww。

 終わった瞬間、手が痛くなるほど大きな拍手を送らずにはいられない。あまりにも感動してブラボーと言う余裕すらない。

 共演するバーミンガム響も冒頭から、やや意外でありながら説得力のある展開に、山田氏の非凡さを感じた。冒頭コメントでは「樫本さんみたいなすごい人が自分とお付き合いしてくれて、すごくありがたい」と言っていたが、お互いに刺激できる関係性だからこそ、二人は仲がいいのではないだろうか。