2021年6月28日月曜日

官庁の不正防止に関する考察

  経済産業省の職員2人が、同省管轄のコロナ対策給付金を騙し取った疑いで逮捕された。容疑者のうち1人が入省前に設立した架空会社を使い、申請・受給していたという。

 こうした不正の再発を防止するには、どうすればよいのだろうか。

 会計検査院は国の収入支出の決算を検査する機関である。今回の事件は警察への内部摘発でわかったそうだが、このような形で発覚しなかった場合、通常の検査によって摘発されたのだろうか。

 今回の事件で思い出したのが、米政府のOIG(Office of Inspector General)という組織である。OIGは各省庁の内部組織として存在し、自らの官庁の業務・会計が適切に行われているのかを検査する。各部署を定期的に検査するほか、問題を発見した職員や外部の人からの報告を常時受けつけている。

 私が所属していた国務省にもOIGはあり、約5年おきに定期検査が入っていた。本部から検査官が訪れ、各職員にインタビューを行う。

 ブッシュ息子政権時にある閣僚が来日した際に、日本政府や自治体との会合など関連業務を断り、相当な勤務時間を観光に使っていた。受け入れ側の米政府職員らは憤懣やるかたなかった。

 こうした不正を防ぐため、私はOIG訪問時にこの件を報告した。しかしながら、当時の検査官からは「東京はいいほうだ。ローマやパリでは日常茶飯事だよ」と一蹴された。最終的には、全てがうまく行っているといった内容の報告書が出された。

 OIG組織が官庁内部にある限り、検査は機能せず自画自賛に終わる。検査人員の半数は外部から導入すべきだ。そう感じた私は、約5年後の次回OIG訪問の事前アンケートにそう書いた。

 2回目のOIG訪問でのインタビューでは、検査官が開口一番にこう言った。「あなたのアンケートはじっくり読んで検討しました。その結果、OIG検査のやり方を変えました。つまり検査官の主観的な感想ではなく、各事案を法令に則っているかどうかで判断することにしたのです」

 これは素晴らしい進歩であり、私は喜んだ。結果的にはOIG運営方法の改良にとどまり、外部検査員は見送られたものの、「もっとひどい事例が普通なんだから、まだましな件を指摘するな」という、おかしな論理はなくなった。

 最終報告書は、本当に身内が行ったのかと思うほど本質に迫り、組織の自浄能力を示す内容だった。民主主義と言論の自由を標榜する米国の真骨頂と言えるこのレポートは、インターネットで全世界に公開されている。

 米国の真骨頂と書いたが、正しくは国務省である。その後私は米政府内で昇進・異動して商務省で働いた。商務省職員の名誉のために述べておくが、これは個人というより組織に関する感想である。

 米国商務省は私が所属していた海洋大気庁のほか、国際貿易庁など業務内容が異なる官庁の集合体である。こうした複雑な組織背景もあり、問題点を同僚の間でグチることがあった。「それはOIGに報告すべき事案だよ」と私が言うと、驚いたことにベテランの同僚はOIGとは何かすら知らなかった。

 商務省のOIGへの報告書式を見ると、国務省のそれとはかなり異なっている。

 国務省では内部告発者を守るため、国務省職員からの報告は自動的に匿名扱いになる。だが商務省のシステムでは、報告する人、報告対象、さらにはその事案がどの法律・規則に違反していると思うかを述べなければならない。弁護士など法律の専門家でないと難しい。結果として報告するハードルが高くなる。

 同じOIGというシステムでも、官庁によって運営方法や規則が異なる。それに加えて、運営する職員の質によっても結果は大きく左右される。

 私の率直な感想を言えば、どの組織も玉石混交ではあるが、玉と石の比率や最低レベルはかなり異なる。一般的な傾向として、入省の難易度と職員の学歴レベルが高いほど優良官庁であり、常識のある職員が報われやすい。

 官庁や大企業といった組織では、事なかれ主義や保身が重視される。このため組織全体をよくしようと真剣に考えて改善点を指摘する人はあまり多くない。志が高く勇気のある人材はまれであり、だからこそ、そうした少数の真のエリートによる発言・行動を促していかないと組織は向上しない。