中曽根元首相の葬儀が先日行われ、国費支出や教育現場の弔意表明をめぐって話題になっていた。
中曽根氏は東京郊外の別荘に各国要人を招いて独自の外交を行っていたが、政界引退後にこの「日の出山荘」を所在地の日の出町に寄贈し、現在は記念館として一般公開されている。
日の出山荘は私の地元にあり、1983年にレーガン大統領(当時)を招いて「ロン・ヤス」会談を行って以来、すごく気になっていた。中曽根氏の葬儀であらためて思い出し、私もようやく時間ができてお天気もよかったので訪ねてみた。
行ってみると別世界だった。専用駐車場から山の中の整備された舗道を300メートルほど歩いて登る。広大な敷地に藁ぶき屋根の古民家(青雲堂)、小さな2部屋だけの離れ(天心亭)、バブル時代の1989年に竣工した西洋風の家(書院)、プール、散歩道がある。
天心亭は日米首脳会談を文字通り膝を詰めて行った場所で、日常的には中曽根氏が寝泊りしていた。平屋で24.79平米しかなく森の中にひっそりと佇んでいる。だからこそ木々のさざめき、雨音や鳥の声がすぐそこに聞こえる。
書院はそれとは対照的な吹き抜けのある大きな洋館で、広々としたリビングルームに大きなソファがあり、隣室は8人掛けのダイニングになっている。壁に飾ってある油絵や書は全て中曽根氏の作品だ。
小さな山全体が敷地となっており、窓から見える風景もすべて自分の所有物である。幹線道路や付近の住宅から離れて静寂が保たれている。
こうした静かな環境でありながら、首相官邸から58キロの距離で日帰りでも余裕だ。軽井沢や箱根といった有名な別荘地でもないので、面倒なつきあいもなく休養や読書に集中できたのだろう。
東京都内にして、この壮大な隠れ家。ヨーロッパの城や宮殿、京都の寺、カリフォルニアにある大富豪のHearst Castle、ニューヨークのトランプタワーなど、これまで様々な豪邸や建築物を見学してきたが、それらとも違う独特の感覚である。
中曽根氏の教養と審美眼を体現したもの。日の出山荘の家屋や敷地の管理にかかる費用は年間890万円で、個人所有となれば固定資産税もかかる。吹き抜けを作ると電気代がかかるとか、そういった庶民的な感覚を超えた物件であることは間違いない。相当なお金持ちでないと維持できないが、彼の実家は群馬の裕福な材木商でそれを可能にした資金力もあった。こうした三拍子が揃った人物は中々いない。
個人的な意見だが、トランプタワーのギラギラした装飾には趣味の悪さしか感じられず、所有者の教養のなさが如実に表れている。フランスのシャンポール城やベルサイユ宮殿も似たようなもので、ただただお金があることや権力を必死に見せびらかしている。
これとは対照的なのは京都の古寺で、無駄を省いたミニマリスト的な価値観がやや行き過ぎて圧迫感を感じることもある。
人間が心からリラックスできる環境を具体化したもの、それが日の出山荘である。こうした空間を私も追求してみたいものだ。