Go Toトラベル第二弾として沖縄の石垣島を選んだ。離島では10月でも気温が高く海で泳げるし、直前の天気予報も晴れだったので急遽予約した。その後突如として台風が発生したが、どうにか進路が外れた。
前回の沖縄旅行では11月にもかかわらず季節外れの台風が直撃し、かなり以前から予約していた体験ダイビングもキャンセルになり、ホテルでテレビを見ていた。こうした事態を避けるため天気予報を確認して行ったわけだが、それでも現地に行かなければわからないことが多々あった。
石垣島は東京から2000㎞近く離れ、台湾までわずか250㎞。だが日本の国土であり、全ての子供が歩いて学校に通えるよう島全体に小中学校が散在し、全校生徒7人しかいない学校もある。それだけ国費をかけて日本人を育成する教育を隅々まで施している。観光タクシーの運転手さんは話が上手で、最後に料金を支払ったときにお土産としてストローで自ら作ったエビのオブジェをいただいた。とても素敵で芸術的なセンスが感じられた。
羽田から直行便でも3時間かかり、物理的には久しぶりに「海外旅行」をした感覚だったが、現地の人々は日本語を話し、日本特有のサービス精神がある。その一方で亜熱帯気候のため、関東地方では想像もつかない多種多様な生物がいる。
現地のセミは明らかに関東のセミとは違う鳴き方で、4月中旬~12月まで大合唱をしている。海にはハブクラゲがいて遊泳中の人を刺し、ショック死した小児もいる。巨大なハチや蛾、布団に入り込んで人を刺す細かい虫もいる。
海に囲まれているため天気が変わりやすく、天気予報はほとんど当てにならない。このため予報をもとに計画を立てたところで、予定通りには行かない。いいお天気だから海水浴をしようとしても、いったん海に入ってみると外からは想像もつかないほど波が強い。
日本でありながら、東京周辺とはまったく環境が違う。
これと同じような状況が思い浮かんだ。同じ大組織に属していても各機関によって驚くほどの違いがある。例えば、米政府には日本の外務省にあたる国務省など様々な官庁がある。米政府での16年間の勤務中、私は最初の12年間を国務省、その後4年間を商務省で働いた。
その体験から言うと、国務省は東京、商務省は沖縄というほどの違いがあった。どんな違いかと言えば、国務省は人間が支配し、それ以外の生物はいても人間にコントロールされている。これに対して商務省には人間だけでなく、都市出身者には想像もつかない生物も跋扈している。
例えば、当時の上司が最近海洋大気庁(商務省の一部)50周年の職員インタビューで紹介され、その内容は驚くものだった。バージニア工科大学に進学したものの授業をサボっていたため成績が悪く、4点満点の評定平均値で2.5をクリアできなかったため退学になった。両親は10代で結婚したが離婚し、働いていた母親の代わりに妹が食事を作っていたが、とてもまずかった。こうした経緯もあって妹とはうまく行かなくなった。妻はメキシコ人で渡米25年の今でも故郷が恋しくてたまらない。その彼女に「もう適応していい頃だ」 と言い放つ。
国務省の上司や同僚には、こうした感覚の人はいなかった。怠け者で成績が悪かったため退学になった話など、そういう過去があったとしても決して他人には言わないだろう。妹に関するエピソードでは食事を作ってくれたことへの感謝もなく、それを当然と考えて文句をつけるなど男尊女卑も甚だしい。さらには外国人と結婚していながら、年を取るほど母国が懐かしくなる感覚を理解できないのだろうか。上級管理職がこうしたエピソードを含む私生活の詳細をインターネットで全世界に公開するというのも、危機管理や組織の体面という観点から国務省では考えられない。
商務省にはほかにも「珍しい生物」に遭遇して度肝を抜かれ、ハチやクラゲに刺された一方、人格的に優れて専門分野に詳しい人物も少なくなかった。
そもそも商務省へ行った理由だが、私は国務省の日本人職員として最高の地位にいたので、米政府内で昇進するためには、より上のポジションのある商務省に移籍する必要があった。そして昇格人事の空席に応募して採用され、見事目的を果たしたのだが、行った先は米政府でありながら国務省とは似て非なる環境であった。
いわば東京近辺しか住んだことがないのに、いきなり沖縄に移住したようなものだ。商務省に関してできる限りの情報収集をしていたものの、実際にそこで働いてみなければわからないことが山のようにあった。内部の人から事前に話を聞いても、当事者は自分の組織の恥さらしになるようなことは言わないものだ。天気予報を随時チェックしても現実は時々刻々と変わるため、最近の予報など当てにならない、ということも当てはまる。トランプという前代未聞の巨大台風にも巻き込まれた。
正直なところ、昇進したいと向上心を持たず、土地勘のある東京近辺にいたままのほうがよかったかもしれない。だが良くも悪くも、海外には行ってみないとわからないことが多く、知られざる現実を知ったことで経験値が高くなり視野が広がったとは言える。