2019年5月25日土曜日

「ルイ・ヴィトン外交」に学ぶ

 バブル最盛期の1990年代前半、渋谷の109前を歩く女性の9割がルイ・ヴィトンのバッグを持っていたという。そうした雰囲気に影響され、私も当時ルイ・ヴィトンのボストンバッグを買い小旅行へ行ったことがあった。

 だが、あのモノグラムの模様はいかにも「ルイ・ヴィトン持ってます!!」という主張が激しすぎる。"Harvard University"など大学名をでかでかと胸の部分に書いたアメリカの大学のトレーナーやTシャツと同じようなコンセプトである。

 そうしたファッション感覚は私の趣味ではない。なのでルイ・ヴィトンはボストンバッグ1個買ったきりで、ほとんど使わず押入れに眠っていた。

 先日、西新宿から丸の内線新宿駅へ向かい、小田急百貨店の中を突っ切って歩いていた。偶然ルイ・ヴィトンの店が目に入り、そのまま通り過ぎようとした。

 だが一瞬、ちょっと見るだけ見てみようかという気になった。店に入ると、すぐのところにスカーフが並んでいた。ルイ・ヴィトンがスカーフを作っているとは知らなかった。黒系・紺系のスーツに合うスカーフを元々探していた。

 東京にある最近のブランドショップありがちだが、日本語を上手に話す中国人のような店員が声をかけてきた。いくつか手に取り、「うわっ。。すごく素敵」と思う色のスカーフがあった。


 この写真ではわかりづらいかもしれないが、本物を見ると、この色は中々出せないと思った。モノグラムのバッグが描いてあるが、スカーフを実際にしてみると、目の前で話している相手がよく見ればわかる程度。全面にモノグラムが施されたデザインのあかさらまな感じがなく、ちょっと面白い。 

 スカーフといえばエルメスが有名である。

 十数年前にニューカレドニアに行ったとき、フランス領のためかフランスから老夫婦がたくさん休暇に来ていて、現地ツアーで一緒になった。その中の一人は現役時代、エルメスの専属でスカーフをプリントする機械を作るエンジニアをしていたという。

 フランスにはこういう職人がいるんだなと知った。そして遠路はるばるニューカレドニアで老後に素敵なバカンスを楽しむ余裕のある報酬を得られるような、高度な技術を持っているということだと思う。

 もう十年以上前になるが、空港免税店でエルメスのスカーフを買ったことがある。日常的に頻繁に使ってきたが、それでも柄の色が落ちたり、布が擦り切れるといったこともない。

 ルイ・ヴィトンもフランスの高級ブランドなので、そうした高度な職人とのつながりがあるに違いない。

 さて、このスカーフを小田急で買うのか、あるいはポイントカードを持っている別の店舗まで行くか。だがルイ・ヴィトンはどの百貨店、ファッションビルに入っていようが、こうした大家の百貨店やビルのカードのポイントは一切つかないという。エルメスやロレックスも同じように、入居先の百貨店やビルのポイントはつかない。セールもしない。

 ということは、どの店舗で買っても同じである。少しでも安く買いたいなら、海外の免税店まで行くしかない。成田・羽田にはルイ・ヴィトンの免税店はなく、海外旅行先の免税店でこのスカーフを置いているかもわからない。

 結果として、小田急で買うことを即決した。

 ルイ・ヴィトンの商売の仕方は興味深い。ポイントを一切つけないということは、ポイントの管理をする手間やコストを省ける。もしポイント制度があれば顧客とトラブルにならないよう、店員の一人ひとりに複雑な制度を完全に理解させ、ポイントを管理するITシステムへの投資やメインテナンスも必要となる。

 さらには、どの店舗で買っても同じということで客に即断を促す。ポイントのつく〇〇百貨店で買おうとか、ポイントアップの時期まで待とう、などと考えているうちに、やっぱり買うのをやめてしまう客は意外と多いと思う。

 その一方、ポイントもセールも一切せず、おトク感ではなく商品価値だけで勝負する商売をするからには、客が思わず心を奪われるような商品でなくてはならない。他社製品にはないユニークな存在感や価値、創造性、面白さがなければ、こうした商売は成り立たない。

2019年5月11日土曜日

ドイツから日本が学べること

 ドイツの紳士服ブランドで婦人物も扱っているHUGO BOSS。ロンドンのお洒落な目抜き通りキングスロード沿い、地下鉄スローンスクエア駅を降りてすぐの所に大きな店舗がある。日本には六本木ヒルズにさらに大きな店があり、GW中にリニューアルオープンした。

 その六本木店にも置いていない素敵なトートバッグが東急百貨店本店にあった。BOSSのホームページにも載っておらず、六本木では取り寄せになるという。

 ちょうどA4が縦に入り(←ココかなり重要)、置いても倒れない構造で、大きすぎず重くなく、紺色で何にでも合う。上が閉まるようファスナーがついていて、飛行機の機内持ち込み荷物として頭上の荷物入れに置いても、中味がこぼれず安心だ。紳士物だがあまりゴツつなく、女性が持っても違和感がない。
 8万8,560円(税込)という値段に少し考えて別のブランドも探したが、上記の条件を満たすバッグは皆無だった。トートバッグは総じて大きすぎるか、小さすぎる。

 東急カードに今入れば2,000円分の商品券をすぐにもらえて、その場で使えるという。さらに2万円以上の買い物をすれば、もう2,000円分の商品券をもらえて、今回の買い物についた2,460円分のポイントとともに次回の買い物に使える。東急百貨店で買えば合計で6,460円も得になる計算だ。

 一方、六本木店ではヒルズカードで820ポイントが貯まるだけで、1,000ポイント貯まって初めて1,000円分の商品券と交換できる。

 問題は"HUGO BOSS EXPERIENCE"という顧客サービスに今回の買い物がどう反映されるか、である。先日六本木店で素敵なノートをもらったばかりなので、六本木店でまとめて買い物をしたほうがいいのだろうか。

 六本木店に聞いてみると、どの店で買おうが関係なく、BOSSのドイツ本社が顧客の価値を判断しているという。なので「東急百貨店で買ったほうが得だと思いますよ」とのこと。六本木店で独自の得意客に何かサービスをしているのか聞いてみると、驚いたことに年間購入額200万円以上が店としての得意客の条件だという。一つの洋品店で一年で200万円も買うわけがなく、しかも件のトートバッグは取り寄せになる。

 こうしてさんざん悩み徹底的に調べた結果、最終的に東急で買うことにした。しかも東急百貨店には店頭品だけでなく、倉庫に新品の在庫もあり、そちらを取っておいてもらった。

 東急によればBOSSのドイツ本部は全世界の顧客一人ひとりがどこで何を買ったかを詳細に把握。そのうえで、ある客が今後どの店で買う可能性が最も高いかを判断し、その店に「素敵なプレゼントを差し上げますので是非ご来店ください」と書いた招待状を発送させる。過去の購入金額の合計で発送元の店舗を決めているわけではなく、合計金額としてはA店のほうが高くても、ここ数回はB店で買っていれば、B店に招待状発送の指令をかけるという。

 たまたまシンガポールの空港免税店で日本の客が何か大きな買い物をしたとしても、海外の店から招待状を送らせることはない。ちなみに招待状には、日本の客であれば日本全国の対象ショップのリストが出ているので、必ずしも本社が招待状発送を指令した店に客が来るとも限らない。 

 どこの店舗で買おうがポイントがつくブランドとしては、ニューヨーカーがある。高島屋で買おうが、軽井沢のアウトレットで買おうが、ニューヨーカーとしてのポイントがつく。しばらく行っていないが、ベネトンも同じようなポイント制があったと思う。

 もう少し大きなくくりでは、日本ではオンワード樫山の作っているブランド(ポール・スミスなど)を対象としたオンワードメンバーズカードがある。例えばポール・スミスでは直営店(六本木、表参道、丸の内、ギンザ・シックスなど)で買うと5%ポイントがつき、百貨店などに入っている直営以外の店では1%しかつかない。

 BOSSのやや変わった面白い点はポイント制ではなく「素敵なプレゼント」であり、誕生日以外はそのタイミングもわからず、行ってみなければプレゼントの中味もわからないことにある。プレゼントというと往々にして、どうでもいいような布製のトートバッグや弁当箱、マグカップが多いものだが、BOSSのプレゼントは決してチャチではなく、BOSSのファンであれば必ず喜ぶような高品質のものだ。

 経済合理性で考えればポイント制のほうが、いくら得になったのかが明瞭にわかる。 だが世の中のあらゆる店がポイント制に走る中、あえてポイントではなく、ドイツ本部による全世界の顧客分析の結果によるプレゼントという概念は、ちょっとした気味悪さを含むエキサイト感があり、少なくとも普通の店とは違うと思わせる。

2019年5月6日月曜日

自由と孤独

 GW最終日はオーチャードホールへN響コンサートに行った。ダメ元で当日券発売時刻の5分前に到着。2階席のまあまあよい席が残っていた。

 正式なコンサートに先立ち、ロビーでブラームス弦楽四重奏第二番を披露。今日の演目のハイライトはブラームス交響曲第二番なので、二で揃えたと、バイオリン奏者の大野氏が説明する。もう少し講釈をすると、この曲はF-A-Eの音列で始まり、ブラームスの親友であるバイオリン奏者ヨアヒムのモットー"Freu Aber Eubsan"(自由に、しかし孤独に)を表しているという。

 自由を求めると、結果として孤独になる。大野氏は家族や友人、オーケストラの仲間に恵まれ、孤独を感じることはない。だが特に家族を持つと、どんどん自由が失われていく。自由で孤独な状態とどちらがいいのだろうか。真剣に悩んでしまう、と。

 私はプライベートな時間はほぼ完全に自由である。実のところ、4月26日に有給を取って以来12日間まさに自由=孤独な状態であった。突然思い立って5億6000万円のマンションや軽井沢の別荘を見に行き、別宅でピザーラを注文し、具やパイ生地の種類、果てはチキンにトマトソースをつけるかマスタードソースをつけるか、全て自分の好みで決めた。というか、一人なので自分で決めるしかなかったのだが。
 
 今日の予定は、本当は松涛美術館に行くつもりだった。だが直前に気が変わり、やっぱりN響とウィーンフィルを比較したくなった。当日券発売時刻までやや時間があったので東急百貨店を冷やかし、エトロの紳士物コーナーに置いてあったアニマル柄のかわいいバッグに心を奪われ真剣に悩んだ。


  BOSSのトートバッグも中々いい。東急百貨店カードに加入すれば同時に2000円分の商品券をくれるので、それを早速使えるという。だがヒルズクラブのカードもあるし、六本木ヒルズの店で年間〇〇円以上買えばお誕生日のプレゼントをくれる、なんてのもあったな。実際、ヒルズの店で先日素敵なノートをもらったばかりだし。要するにポイントカードは浮気防止、よその店に行かないでねという意味合いなので、一箇所に固めないと十分なメリットは得られない。

 そんなやりとりをグダグダやっているうちに、当日券発売の時刻が迫ってきた。これが家族や友達と一緒だったら、「もう行くよ! なにやってんだよ~~!」と言われるところだ。ギリギリまでバッグについて悩み、まあコンサートが終わってからも閉店まで時間はあると思い、切符売り場に到着したのは5分前になっていた。

 ブラームスがソウルメイトの私は、いくつかの演目のうち当然ながらブラームスの悲劇的序曲と交響曲第二番が目的だった。悲劇的序曲は素晴らしかった。だがウィーンフィルのあの想像を絶する、期待値をはるかに上回る交響曲第二番の演奏を昨年11月に聴いた印象が生々しく残っている中、どうしても比較してしまう。結果としてアンケート用紙にはモンスター聴衆?のような文言を並べてしまった。


 オーチャードホールのほか映画など文化村の施設のチケットを見せると、東急百貨店のレストラン街で飲み物サービスなどの特典がある。

 先日、せっかく軽井沢まで行ったのに有名蕎麦店はおろかJR軽井沢駅の構内にある蕎麦屋まで、午後7時には閉店していた。わざわざ長野まで行ったのに蕎麦を食べ損ねたという思いがずっとあり、永坂更科という麻布十番に本店のある老舗蕎麦屋に入った。無料のオレンジジュースで完全禁酒1周年を祝い、自分の意志の強さに乾杯した。

 ブラームスの時代はSNSはおろか電話も普及していなかったと思われる。だから自由=孤独という概念だったのだろう。だが今やブログやフェイスブックで誰もが日常を共有でき、自由でありながら本当は孤独というわけでもない。

2019年5月4日土曜日

自然の癒しを求めて

 GWは新緑の季節。リゾート地に別荘でもあれば素敵だろう。

 現物を確認すべく軽井沢へ直行した。別荘のよいところは、ホテルのように予約が要らず、気が向いたらいつでも行ける点にある。だが新幹線は完全満席、高速バスも予定の2倍以上の時間がかかり、特に軽井沢に着いてからの渋滞は歩くのと変わらないほどの混みようだった。

 不動産業者いわく、お金持ちは新幹線でJR軽井沢駅まで行ってタクシーで別荘へ移動。現地に置きっぱなしにしている車でドライブする。抜け道もあるが、それでも渋滞の激しいメインストリートをどうしても通らないと行けない場所もある。置いてある車のバッテリーは上がってしまい、ボンネットは花粉だらけ。着いたらまず車のメインテナンスから始めなければならない。

 肝心の新緑だが、4月末時点で山間部はまだ桜も咲いておらず季節は冬。森林浴というより枝浴というほうが正しい。

 森林浴の目的を果たせず欲求不満の私は、東京郊外の別宅へと向かった。

 さすがに桜はとっくの昔に終わり、新緑で柿の木は元気一杯である。また植木屋さんに来てもらわないと伸び放題になってしまう。4年前にデュポン社製の分厚い防草シートの上に砂利を敷き、草取りから解放されたと思っていた。だが雑草の強さは目を見張るものがあり、この4年間に砂利の間に飛んできたわずかな土や枯葉の間からにょきにょきと草が生えている。

 南天は最大の難点で、頼みもしないのに物置の物陰まで、至るところに新しい木を生やす。職場のある集団を髣髴とさせ、このヤローと葉の茂った枝をボキボキと折っていき、それだけでゴミ袋が一杯になってしまう。植木屋さんには「南天は〇〇の所にあるもの以外は、全て根こそぎとってください」と指示を出そう。

 南向きの庭はこうして戦場と化し、一方で北側はほとんど草も生えていない。いかに生き物は太陽が好きなのかがわかる。まるでお金のあるところにたかる人間のようである。実際、南向きのマンションは北向きのマンションと比べて、はるかに高値で取引されている。

 ある程度の庭があれば住宅地でも、森林浴というか少なくとも緑浴は楽しめる。だが問題は近所の家との距離である。都内では一区画30坪以下が大半で、隣家の窓まで数十センチしかない。60~150坪程度あれば、屋内の生活音は気にならないが、窓を開けっぱなしにする季節だと庭先でやっているバーベキューや会話、ボール遊びなどの音がかなりうるさい。

 静寂の中で読書を楽しむには、山間部に350~500坪以上の土地を確保する必要がある。軽井沢の不動産業者いわく、坪7万円位の土地もあるという。国土交通省は現在、土砂災害危険地域の見直し中ということで、その結果が出てから地図を吟味してもいいかもしれない。

 結局のところ、静けさを求めるのであれば、都心の賃貸マンションが確実という結論に達する。持ち家はお金があれば誰でも買うことができ、第三者が騒音のルールを決めて管理しているわけではない。賃貸マンションであればそうした細則があり、うるさければ管理会社に伝えることで改善される。そもそもオーナーや管理会社が審査して入居人を決めるので、とんでもない人がいる可能性は低い。それでもイヤならもっと審査のしっかりしたマンションへ引っ越せばよいが、いったん家を持ってしまうと売買の手間もかかる。

 しかしながら、都心のマンションでは森林浴と言っても、せいぜいエントランス近くの植え込みやバルコニーから見える神社の木々くらいである。

 日常の中で自然の癒しを求めるのは、なかなか大変だ。