著者のBarry Eisler氏は元CIA職員の小説家。本書は日米ハーフでフリーランスの殺し屋John Rainを主人公とするシリーズのうちの一つで、現在では同シリーズの別の話と合わせて"Redemption Games"として刊行されている。
もう13年も前になるが、Eisler氏が在日米国商工会議所で開催した勉強会でサインしてもらった数冊の本のうちの一冊が本書である。あれから積読になっていたが、ようやく時間の余裕ができたので読んでみた。
いや、なんというタイミング。。元首相が暗殺された経緯には、あまりにも不自然な点が多いが、こういう背景があったのだろうか。著者いわく「CIAの内幕は事実」とする下りを読んでいくと、この摩訶不思議な展開のつじつまが合う。
本書によれば、モサドやCIAなどの諜報機関や自民党はRainのようなフリーランスの殺し屋を雇っている。多くの政府機関と同様、CIAは自己満足に陥りがちで、自らのネットワークも大したものではなく、より優れた人物や組織に仕事を委託している。Rainはこうした委託先の一人。
ターゲットが政府内部にいる都合の悪い人物だったり、複雑な利害関係がからむ場合、CIAは自らの手を汚すことはできない、という事情もある。事の次第が明るみに出て、議会の公聴会で尋問される事態となれば、より多重の監視が加わって本来の仕事ができなくなる。
本書では、爆弾製造の技術を危険な組織に伝授することを生業とするManheim Levi(仲間内では通称Manny)というイスラエル人が登場する。モサドはMannyの殺害をRainに依頼し、Rainは元海兵隊員の仕事仲間で、同じくフリーランスの殺し屋Doxに呼びかけて、ペアになってこの「仕事」を遂行する。
こうした殺し屋は特別な訓練を受けており、射撃、武術、薬剤などの手段を駆使して素早く確実にターゲットを殺害する腕を持つだけでなく、最高のタイミングで相手に近づくために必要な監視カメラや盗聴器に関する専門知識や使い方も心得ている。任務の遂行後、ただちに偽造パスポートで国外逃亡するのも特徴的だ。
このため小説の舞台は東京、名古屋、マニラ、バンコク、プーケット、香港と展開していく。香港のグランドハイアット、九龍半島と香港島を結ぶスターフェリーなど、私にも懐かしい場所が出てきて情景が目に浮かぶ。
著者は相当な日本好きなようで、焼き鳥などのB級グルメの描写もリアル。南青山にある蔦珈琲店のコーヒーは「世界でいちばん美味しい」らしい。フォーシーズンズ丸ノ内のスイートルーム、サービスも事細かに描かれ、興味をそそられる。
Rainはモサドの発注担当者Delilahと恋愛関係にあり、二人のベッドシーンはかなりの肉食系。あまり心地いい感じはしないものの、このように非日常的な体験をすることはないので、読む分には面白い。
ちなみに殺し屋は「出来高制」で任務の遂行後に報酬は払われる。Manny殺害の「料金」は4,000万円で、Rainは半額をDoxに支払う。つまり自分の手元に残るのは2,000万円。税金はどうなるのか、おそらくないのだろう。
しかしながら、本書で語られる壮絶なシーン、高度なテクニック、命がけの危険な作業、良心の呵責と心理的なトラウマを考慮すると、あまりにも割に合わない仕事だと思う。