モスクワ・クレムリンの「武器庫」は博物館と呼んだほうがわかりやすい。ロシアの歴代皇帝に贈られた宝物が所狭しと飾られている。どの国からの贈り物であれドイツの技術者がデザインしたものが多く、フランスからのものはない、とガイドは言う。「えっ、それは意外ですね。外交で有名な国なのに」と私が言うと、「だからこそフランスは贈り物をしないことで有名なんですよ」と。
元外交官の田中均氏の著書によれば、小泉純一郎元首相もめったに贈り物をしないが、拉致被害者の帰国につながった訪朝後、朝一番で小泉氏から田中氏へウイスキーが届いたという。
こうした話を聞いて以来、贈り物をする意味や効果について考えをめぐらせている。購買力があれば、本人が最も何が欲しいかをよくわかっている。カタログギフトや商品券はこうした事実にもとづいている。
贈る先の人物にだいたい欲しいものは揃っているか、物質欲がさほど強くなければ、贈り物の効果は中味よりもそこに込められた気持ちがうれしいかどうかで決まる。なんらかの見返りを期待して贈られたギフトは、どこかぎこちなく不安になるものだ。
もっと言えば、好きな人からもらえば何でもうれしく、そうでなければ逆効果という気がする。吉田兼好は「ものをくれる人はいい人だ」と言ったらしいが、個人的にはその逆だと思う。
PR目的のグッズはその典型例だ。阪神ファンが読売新聞から巨人のロゴ入りタオルを贈られたら巨人ファンになるわけはなく、むしろ頭にくるだけだろう。エコバッグも増えすぎてしまい、かえってエコでなくなっている。