2026年2月14日土曜日

書評 「株はもう下がらない」(朝倉慶著)

   1929年の世界恐慌、1987年のブラックマンデー、1990年の日本のバブル崩壊、2001年のITバブル崩壊など、過去に株式市場は大暴落を経験してきた。

 だが2008年のリーマンショックではFRBが4.5兆ドルという巨額の量的緩和を行った結果、5年で株価は回復した。これを機に「暴落が来たら財政出動をすればいい」という方針が定着。それ以来、一時的に株価は下がっても短期間で戻るようになり、世界恐慌(高値回復まで35年)や日本のバブル崩壊(同、34年)のような長期に亘る株価低迷はなくなった。

 現在の日本はデフレを脱却してインフレに突入。だが高市政権は「責任ある積極財政」と減税で世の中に出回る通貨量を増やし、さらにインフレを加速させている。インフレになれば自動的に税収は増え(例えば、100円の品が200円になれば、消費税額も2倍になる)、国債の価値が下がり、財政は潤う。つまり国民にとっては増税だが、国は税率を上げるわけではなく、見えにくい「ステルス増税」となっている。

 こうして現金の価値がどんどん下がり、円安が進行する中、株・不動産・ゴールドといった資産は上がり続ける。上述したように、どの国の政府も株価の大暴落と低迷を起こさせない政策を取っている。生活防衛のためには株を買うしかない。

 その一方で低所得者やゾンビ状態の企業に補助金を出す→通貨量が増える→通貨価値が下がる→インフレで生活が苦しい→さらなる補助金という負のスパイラルはやがて国をほろぼす。むしろ中高所得の労働者の高負担を緩和し、貧困から抜け出すべく努力するインセンティブを与える政策こそが必要だ。

 上記が本書の要旨である。特に「インフレ=増税だが、株価は上がる」ことを何十回も言い続け、さすがにしつこい。重要な点は何度も繰り返すのが最近のビジネス書の傾向のようだが、本書では壊れたレコードをも凌駕するレベルだww

 日本株の動向に関しては、朝倉慶氏と同様、武者陵司氏も従来から強気の予測を当ててきた。ただ円安の理由については、武者氏は「半導体など戦略物資の製造を中国やアジア諸国から日本へ移すための、米国による安全保障上の措置」としている。かつて円高によって日本から製造拠点を流出させたのと真逆であり、日本経済の復権を意味している、と。このあたりは大和証券時代に米国勤務を経験した武者氏のほうが説得力がある。

 また朝倉氏はコメ農家とゾンビ企業を同列で扱い「補助金で甘やかすべきではない」と言うが、これもいかがなものか。地球温暖化が進み、天候にも左右される農業、特に主食である穀物の生産者は国が保護することで、安定供給と食糧自給率の向上を実現させなければならない。

 最終章の注目銘柄も参考になったが、OpenAI一本足打法に近いソフトバンクグループも入っているのは気になった。Gemini3が登場した2025年11月18日以来、それまでChatGPT一強だったAI業界の勢力図は一変している。

 これと同じように、Anthropicの業界向けAI"Cowork"の出現でSaaS銘柄が売られている。その理由は「AIによるホワイトカラー労働の代替」であり、NECや富士通から、今や三菱UFJ、ゴールドマンサックスなど金融業にも及んでいる。そう考えると今後オフィス空室率が上がり、需要が下がる可能性のある三菱地所にも影響が波及するかもしれない。

 このように生き馬の目を抜く世の中だが、今後も株価は全体として上がる一方という著者の見方には説得力がある。